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Juno は きっと微笑んだ

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経堂からゆっくりと


成城まで麗華さんを送っていく隼人さんの車に乗せてもらって、直美がバイトしてる経堂までたどり着いていた。もちろん食事も誘われていたけど、8時まで直美もバイトだったし、断って車を降りていた。
「今度の日曜日バイト休みなんで、時間があったらですけど、教会行きますね、隼人さん・・」
「おっ、そうかぁ・・暇だったら、腕のいいところを見にきなよ・・手伝ってもいいぞ」
「そうですね、考えてきます、じゃぁ、どうも」
車のドアを閉めながら頭を下げていた。
「劉、ありがとね、直美ちゃんにもよろしく言っといて・・」
麗華さんが助手席から声をかけてくれていた。
「じゃぁあな、ありがとな」
隼人さんは言い終えると、車を動かしていた。車はぐるっと駅前をまわって世田谷通りに向かっていくようだった。
時計を見ると、まだ7時になったなかりで、直美のバイトが終わるまでにはまだ1時間も時間があった。
目の前のケンタッキーの店に近付いて中に入ってカウンターを覗くと直美はすぐにこっちに気がついて、小さく手を動かしていた。仕事のじゃまはイヤだったから、8時に来るねっ、後でね、ってゆっくっり口を動かすと、うんってうなずいて返事をだった。お返しにこっちも うんって うなづいていた。
時間つぶしに本屋と喫茶店かなぁーって感じで外にだった。

たまに来ていたジャズが静かに流れている喫茶店で本を読んで、おいしいコーヒーを飲んでいると時間は7時50分をまわっていた。
ここから駅までは5分ぐらいだったから、のんびりゆっくり歩けば、ちょうどいい時間のようだった。
会計を済ませて商店街を駅に向かって歩き出すと、帰りのサラリーマン達が駅から家に向かって歩いていた。少し疲れて、少しほっとしているよう顔だった。
たぶん、方向は逆だったけど、きっと俺もそうだった。

直美のバイトは8時までだったから、着替えて出てくるのはそれから5分か10分あとのはずだった。店の前にたどり着いた時は中に直美の姿は見えなかったから、たぶん着替えてる途中のようだった。時計は8時8分を指していた。
「お待たせー ごめんねー」
「うん、さっ、帰ろうか」
「自転車とってきちゃう来るから、ここで待ってて 劉」
言うと、お店の裏のほうに、早足でだった。歩いて追いかけると鍵を外してにっこりの笑顔を見せていた。
「待ってていいのに・・さて、帰りましょうか・・」
「どうする、どっかで食べていくかぁ・・」
「家でいいよ、ゆっくり食べようよ」
「そっか、じゃぁ 帰りますか・・」
直美の自転車を押しながら、二人並んで歩き出していた。家までは10分ちょっとの距離だった。
「どうだったの・・隼人さんたちは・・」
「ステファンさんと隼人さんたちが、話してるところには一緒にいなかったから良くはわかんないんだけど、はっきりとは断られてもいないし、OKでもないし・・うーん、で、なんだかお墓の周りの柵の修理なんか頼まれてた、隼人さん・・」
「そんな修理を頼まれちゃったんだ。隼人さん・・」
「そう、何を考えてるんだかって 感じです、ステファンさん・・」
「でも、なんか、考えあるんでしょ、きっと」
「そりゃ、そうだと思うよ、でもさぁ、こっちは大変よ」
「そういわないで、頑張りなさいよ」
「頑張ってるんですけど・・」
「そう、だったらいいんだけど・・」
やっぱり、なんでも、お見通しって顔の直美だった。
「今日は何食べようかぁ、劉は何がいいの・・」
「うーん、そうだなぁー コロッケかしょうが焼きか、とんかつ・・」
「じゃぁ、しょうが焼きでいいかな、劉・・」
直美のしょうが焼きは、けっこうおいしいものだった。
「うん、それが1番早そうだし、お腹すいちゃったから、それで・・」
「おいしいから、それでって言いなさいよ」
自転車を押してる背中を叩かれていた。
「直美って日曜日なんか、用事あるの・・休みだよね、バイト・・」
「今のところないけど、なーに、どっか連れてってくれるわけ」
「いや、そういう意味じゃなくて、なにもなかったら、教会に少し顔だそうかなぁって・・日曜日に柵を直すらしいから、隼人さんが・・」
「そうなんだぁ・・いいよ、行っても・・でも、デートも少ししてね・・」
言われてみれば、たしかにこの頃2人でデートらしいデートってしてないような気がしていた。
「じゃぁ、どっかに行こうか・・」
「日帰りバスでどっかに行こうかぁ、暖かくなってきたし」
「いいかも・・場所はまかせるから・・」
「うん、調べてみるね・・でも、帰りって夕方になっちゃうよ、きっと・・それでもいいの」
「うん、いいよ、柵作るのって俺じゃないし、きちんと約束したわけじゃないから・・帰りにちょっと寄れれば・・」
あんまりでしゃばって、ステファンさんに怒られてもって考えていた。ただ、どんな風に出来上がるのかは本当に興味があった。
「じゃぁ、なるべく早くに戻ってこれそうなの、探しとくね」
「うん、でも、あんまり気にしなくていいよ、もう、俺の手は離れたって感じだし・・後は隼人さんとステファンさんでかなぁ・・」
別れ際に窓から出したステファンさんの顔はきっと、そんな意味の顔のはずだった。
「そうなの・・じゃぁ、いちご狩りとか、いいなぁ・・食べられるのがいいなぁ・・」
「うん、いいね」
「じゃぁ、探さなきゃ・・見つからなくてもデートは約束だからね、劉」
「うん、いいよー どっかでかけよう・・なんか俺、急にいちご食べたくなったんだけど・・売ってないかなぁ」
「日曜日においしいの食べられるかもしれないから我慢しときなさいよ、ありがたみなくなっちゃうでしょ」
「なるほどねぇ・・」
「はぃ、なるほどですよ」
直美に笑われていた。
帰り道は、あとはマンションまで真っ直ぐになっていた。
「寒かったら、先に自転車で帰ってもいいよ、直美・・」
「いいって、なんか、楽しいから・・劉と一緒に歩くの好きだもん」
歩きづらかったけど腕を組まれていた。
「劉、もうすぐ、1年になるね、こっちに来てから・・」
「そうだね、早いねぇ」
「いろいろあったけど、ずーっと一緒にいれたらいいね」
「うん、そうだね」
組まれた腕の直美の手が、ぎゅっとだった。
世田谷の住宅街を歩く2人を満月が追いかけてきていた。直美の好きな綺麗な月夜だった。