Juno は きっと微笑んだ
いちご狩りを終えて
急に決めたけど、日曜の日帰りバスツアーは8時半に新宿をでて、水戸の偕楽園で満開の梅を見て、益子焼きの見学を終えて、それからいちご狩りをして、帰路に向かって走っていた。
2人でお腹いっぱいになるほど、いちごを食べたけど、バスの座席の頭の上の棚には、お土産で買ったいちごのパックが4つ入ったダンボール箱が3つだった。
隣の直美は、お腹がいっぱいなのか、疲れたのか、さっきからずーっと寝息を立てて頭をこっちにだった。
「起きて、直美・・着いたよぉ」
バスは予定時間を10分過ぎた6時40分に新宿駅の西口にたどり着いていた。
「すごーく 寝ちゃったぁ」
「そうだね、1時間は寝てないけど、30分以上は静かだった。さっ 降りようか」
「うん」
直美は大きな背伸びを一つして、ゆっくりと椅子から立ち上がってねむそうな顔で返事だった。
手にお土産のいちごのダンボールを提げて外に出ると、1時間ちょっと前の田舎の風景とは違ったネオンとビルと人ごみだった。
「ちょっと、ハードスケージュールだったけど楽しかったね、劉・・いちごも大きくておいしかったし・・」
「直美すごく食べてたでしょ」
「だって、甘くておいしんだもん、たぶん、2パックぐらいは軽く食べちゃったかも・・」
「うん、たぶん食べてたよ、きっと。さ、悪いんだけど、もうひと頑張りで叔父さんち付き合ってね、お土産持って行きたいから」
「そのつもりで買ってきたんだから、行くわよー さっ行こう、重たいけど頑張ってね、劉」
人ごみを抜けて、新宿駅に向かって、30分ほどの叔父の家まで歩き出していた。なんだか、直美に近付くとまだ、ほんのりいちごの香りがだった。
「はーい、どなたですか・・」
「直美ですけど、すいません、夜に・・」
インターフォンからの叔母の声に直美が元気にこたえていた。
「あら、今、開けますからね・・」
時間が時間だったから、すこし驚いたような声だった。
「あら、劉ちゃんもなの・・」
「はぃ、これ お土産ですから食べてください、いちご狩りに行って来たから・・」
「まー おいしそう、こんなにいっぱい、さぁ上がってって・・」
「遅いから、今日は帰ります、朝も早かったんで・・それに、ステファンさんにも届けて帰りますから、これ・・」
まだ、持っていたいちごのダンボールを見せていた。
「そう、じゃぁ、もっとゆっくりできるときにまた、いらっしゃいね」
「はぃ、そうします」
「じゃぁ、失礼します」
「ありがとうね、直美さんも」
笑顔の叔母だった。
「叔母さん、すごーく甘くておいしいですから・・」
直美の言葉で一緒に頭を下げて、玄関をあとにしていた。
「じゃぁ、教会行って帰ろうか・・」
「うん、ステファンさんいるといいね、劉」
「いなくても 置いてくりゃいいよ、たぶんいるとは思うけど・・」
「そうだね」
表の大きな門は閉まっていたから、隣の小さな入り口から中にだった。
「うーん、こっちかなぁ・・」
明かりのついている聖堂の横の建物の入り口に向かっていた。たぶん誰かいるはずだった。
「こんばんわー すいませーん」
ドアを勝手に開けて、声を出していた。
「はい、どちら様ですか・・」
「あっ 林さん、こんばんわ」
大学生の林さんだった。
「こんばんわ、いらっしゃい」
「こんばんわ、おじゃまします」
直美も一緒に声を出していた。
「これ、お土産なんですけど、食べてください・・」
「すいません、いちごですか、おいしそうですね」
「ちょっと日帰り旅行行ってきたから」
「そうですか、待ってくださいね、ステファンさん呼んできますから」
「はぃ」
林さんは箱を後ろのテーブルに置いて2階のステファンさんの所に上がっていくようだった。
「いるみたいだね、ステファンさん、良かったね」
「うん、ま、別に顔見なくてもいいんだけど、俺は・・また、面倒な事言われてもだから」
「そういうことは言わないの、劉」
笑い顔で直美に怒られていた。
「おっー すんませんなぁー なんか お土産もろたらしいけど・・」
巨漢を揺らしながら階段を降りながら、大きな声だった。
「こんばんわ、ステファンさん、いちご持って来ましたから、食べてくださいね、すごーく 甘くておいしいですから・・」
直美が元気に声を出していた。
「直美さん、すんまへんなぁー いただきますわ、これでっかぁー こりゃうまそうでんなぁー 気いつかわせてすんまへんな」
「いいえ、おいしかったから、栃木にいちご狩り行ってきたんですよ、是非食べてもらいたくて・・ねぇ、劉」
「うん」
あわてて、うなずいていた。
「あっ、あんさんの知り合いの隼人さん、今日来てくれはりましたで」
「そうですか、見て見ますね、出来上がり・・」
「それが、あの人、なんか設計図まで書いてきて、どうせなら全部きれいにしましょう、作り直しましょう、いうて、材料トラックいっぱい積んできて、大掛かりになってしもたわ・・」
「えっ・・そうなんですか」
「わて、そんな金ありませんから言うたんやけど・・残り物の材料ですからって言いますのや・・」
「ほら、これが設計図・・」
手に持っていた紙を広げて見せてくれていた。
「へー 」
きれいに色もついた設計図ではなくて、完成図って感じの立体に書かれたきれいな絵だった。たぶんパース図っていうものらしかった。
直美も一緒に覗き込んでいた。
「へー、こんなになるんだぁ・・隼人さんこれ、作っちゃうんだ・・すごいね、劉」
「うん、学校もそっち系だしね」
直美もびっくりって顔だったけど、俺もだった。
「今日は、古いの壊してきれいにして、さっき、帰りましたんや、あの人・・」
「そうですかぁ・・毎週来るんですかね・・」
「どうやろ、そう言って帰りましたけどな、休みにしかできへんさかい、時間はかかりますよってとは言われたんやけどな」
なんだか、うれしそうな顔で話をしていた。
「あっ 言っておきますけど、俺は何も隼人さんに言ったりしてませんからね・・大丈夫ですから」
「そうでっか、ほんまでっか、なら ええこっちゃわ」
肩をでかい手でおもいっきり叩かれて笑いながらだった。
「じゃぁ、もう帰りますから・・」
「そうでっか、ごちそうさんでんな、すぐに食べさせてもらうわ、気いつけて帰りーや」
「はぃ おやすみなさい」
直美と頭を下げて外にだった。
「あれ、お墓いかないの、劉・・」
「あっ、忘れちゃった」
「めずらしい・・ちょっと見てみようよ」
「うん」
ぐるっと体を1回転まわして、すぐにだった。
「これって、材料かなぁ・・」
ブルーシートがかかった木材が置かれていた。
「なんか、いっぱいだね、本格的になっちゃうのかなぁ・・すごいね隼人さん」
ブルーシートを眺めながら直美が関心していた。
「性格なのかもね・・隼人さんらしいかなぁ」
「ここが、あの絵みたいになったら、きれいだね」
「なんか、ますます、ステファンさんの思い通りって感じだなぁ・・」
「いいんじゃない、思い通りじゃないと、困っちゃうでしょ・・ほんとうは喜んでるくせに、劉も」
笑顔で聞かれていた。
「ま、楽しく見させてもらおうかなって感じだね」
「そっか、じゃぁ わたしも・・」
作品名:Juno は きっと微笑んだ 作家名:森脇劉生