氷解き
息子は占いというものを信じていなかった。無論氷解きも同じことだったね。
自分の生まれた土地に残る古い因習だと思っていた。姉や母が、揃って絹に氷解きを習いに行く姿を疎ましく感じていたそうだ。
また、絹の容姿を恐ろしいと思っていた。港町の女は皆小麦色の肌に、漆のように黒くつややかな髪をなびかせ、大きな声で笑い声をたてた。
色の薄い絹などは、亡霊のようで、ろくろくこの世の女ではないと周囲に漏らすことが多々あった。その度に姉や母から叱責を受けたらしいがね。
ある晩絹が軒先に水の入った桶を並べていると、斜向かいの家から息子が飛び出して、北の林の方へと大急ぎで駆けて行く姿が見えたそうだ。後から母や姉が外へ出て来て盛んに息子の名を呼んだ。
しかし息子は翌朝になっても帰って来ることはなかった。