トロイメライ
「あ、摂津くん、あれはどう?」
「ん、どれ?」
土居が指差したところには、赤や黄色のカラフルな包装紙に『たこ焼煎餅』と書かれた箱が積まれていた。
「え、これぇ?」
彗太は大阪に来て、これだけは買うまいと思っていた。食べたことがないので何とも言えないのだが、邪道すぎる、というのが彼の考えだった。たこ焼を煎餅にするなど、カステラのアイスをつくるようなものだ。
「日持ちするみたいだし、いいんじゃない?」
そう言う土居は少し笑っている。ご丁寧なことに、少人数向けから会社向けまで量の種類は豊富だった。土居の言うように、消費期限もだいぶ先だ。だが、友達同士でネタにするにはいいかもしれないが、お土産としては少々微妙だろう。
その時ふと、昨日母が言っていた河内の名が頭に浮かんだ。
「うん、これにする」
「え、本当?」即決した彗太に、土居は少し驚いたようだった。
「ひとつだけ。他は別のにするよ」
彗太はたこ焼煎餅の箱を手に、自分の中で意地悪な気持ちが首をもたげるのに気づいていた。