看護師の不思議な体験談 其の八
そんな時…。
日勤勤務に早めに出勤してきた新人Uさんが、バタバタと走って来るのが見えた。
Uさんは私たち3人のもとへたどり着き、息をハアハアと乱しながら、話し始めた。
「3階のオペ室がえらいことになっとるんよ~」
ちなみに、うちは4階病棟なので、ちょうど今立ち話をしている真下がオペ室になる。
「どしたん、何があったん」
「私も詳しくは聞いてないんですけど、なんか水浸しみたいで」
やっと呼吸が落ち着いてきたようだ。
それにしても、水浸しとはどういうことなのか。
「とりあえず手が空いてるスタッフは大至急集合って言われたけ~、先輩らも来て下さい」
Uさんはそう言うと、階段のある方向へと、バタバタ走って行ってしまった。
夜勤スタッフのうちの一人と一緒に、私もUさんの後を追うように走り出した。
階段を降り、3階のオペ室あたりに到着した途端、尋常ではない事に気がついた。
オペ室手前の絨毯がすてにぐっしょりしている。靴が沈み込む感じ。
「やだ、何これ」
いつもは閉め切っている扉も全部開放し、腕まくり、足まくりしたスタッフたちがモップを持って駆け回っている。
「うわ、院長がモップがけやってるよ!」
滅多に見ることのない、というかこれから一生見ることのできない院長の掃除姿。
その隣で、「あらあら、まあまあ」と騒いでいる看護部長の姿。
(あー、こういう時、部長って役に立たないな…)
呆然としていると、オペ室の師長の大きな声が響いた。
「あんた達、ぼーっと突っ立ってんじゃないよ!手伝うんなら、さっさとこっち来て!」
中へ入ると、床にあふれた水はしゃれにならない量で、手術室の床全体はもちろん、それが外の廊下にまで洪水のようにあふれ出ていたのだ。ザブザブと音を立てながら、中へと進む。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の八 作家名:柊 恵二