看護師の不思議な体験談 其の八
82歳女性、ヨネさん。
年齢の割りに、悪戯好きで、わざと看護師たちを困らせることが大好きだった。上の病棟に入院されている時も、ナースコールを連打し到着する看護師のタイムをこっそり測ってランキングして貼り出す、勝手に外出して知らん顔で帰院、他の病室へ入って別の患者様の食事を食べてしまう。注意しようもんなら、認知症の振りをしたり、廊下で「この看護婦さんが怖い」と泣きまねをしたり…。
すごい患者様がいるというのはウワサでは聞いていたけど、まさかうちの病棟へ入院していたとは。他の患者様からの苦情が多くなり、病棟を変えることになったそうだ。もちろん、病棟が変わってもヨネさんの悪戯パワーは衰えず。
特に好きな悪戯は『水』関係だった。個室のお風呂を溢れ返させたり、雨の日は必ずといっていいほど外に飛び出して行ったり。
「あっはっはっはっ…!」
うちの病棟での話を聞き、つい大笑いをしてしまった。
「他人事だから笑えるんですよ、もう!」
「ごめん、ごめん」
そんな患者さんなら退院させればいいのに、と思われるかもしれませんが…。子どもや親戚とは絶縁状態、一人暮らし、面会者もいない、そしていつ急変してもおかしくない全身状態。病状や社会背景を考えると、頻回の悪戯もヨネさんの寂しさの裏返しなのかと感じられ、看護師一同根気良く付き合っていたのだ。
「ちょうど1週間だから、初七日ですね」
「まだ悪戯し足りないのかしら」
同僚と後輩は、悪戯の数々を思い出しながら笑っていた。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の八 作家名:柊 恵二