看護師の不思議な体験談 其の八
やっとぐっすり眠り始めた頃、壁をカリカリとひっかくような音。
耳障りな音に目が覚めた。
(やっと眠れたと思ったのに…)
意識し始めると、よけいに気になり始める。
カリカリカリカリ…
爪をとぐような、ペンでひっかくような。
(何の音なんだろう)
私はふとんの中からあたりをうかがった。頭元にオレンジ色の小さなライトだけを点灯させていたため、部屋の中はなんとなく見える。
上半身だけ起こし、ぐるりと部屋を隅々まで見てみるが、特に何の変化もない。
(まあ、いいか)
もう一度ふとんを引き寄せ、もぐりこむ。
しばらくすると…。
カリカリカリカリ、カリカリ…
再び聞こえ始めた。
(隣の部屋かな…)
どうやら、壁越しに聞こえる。認知症の患者様か、小児科入院の子どもか…。
患者様が壁を触っているのだろうと思った。
(まあ、文句言いに行くほどのことでもないし、明日でいっか)
そう思い、結局その「カリカリ」という音をしばらく聞きながら、眠りについた。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の八 作家名:柊 恵二