水底
「マキノさん今日は魚っぽいね。」
ヒロタさんは先週痛めた腰に手をあてながらこんなことを言う。
「はあ。」
「マキノさん仕事には慣れたかね。」
「はい。ずいぶん慣れました。」
「それはよかった・・・しかし退屈しないかね。若い人はこんな仕事。つまらんだろう。」
ヒロタさんはざくろの果樹園を営んでいる。先週腰を痛めて以来、手入れが思うようにいかず、人手を探していたところ、近所に住む私が願い出て、以来しばらくこのざくろ園でお世話になっている。
収穫の時期にはまだ少し早いが、大きくなり始めた実もたくさんあり、手入れをしながら赤い実をつうとなぞると、皮が内部からはちきれそうなほどにつるりとして、ひんやりとした触感を指先に残した。
「マキノさんこれ持って帰らんかね。お隣さんにもらったんだが、うちでは食べきれないんでね。よかったら貰ってくれんかね。」
そう言いながらヒロタさんは緑色の紙袋を渡した。中にはパックに詰められたちくわがいくつも入っていた。