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水底

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 午後9時を越していたが、夕食を作りはじめた。
ずいぶん長く使っている片手鍋に水をはり、粉末の中華出汁と鶏ガラのスープを入れる。
残り物のキャベツやにんじんを細かく刻み、冷凍のえびと一緒に電子レンジで軽く蒸しておく。
鍋の中身が沸騰したらすべてを合わせて水とき片栗粉を入れ、塩や胡椒でてきとうに味を整える。それらを白米の上に乗せると、ずいぶんかんたんな、よく作るが名前のない料理が出来上がった。
 ついつい二人分の料理を作ってしまう。今回もやはり多かった。
ごく最近までは二人分の料理を作ることが日課だったため、また、料理を作る際わざわざ計量カップを使うなどということをしないため、感覚のみで作っていると、自然と二人分できている。
部屋の方を見やると隅に浮かぶ魚のひげがゆらめいていた。
もう一人分の料理はこの魚にやることにする。

 横に長い、楕円の形をした浅くおおきな白い皿に料理を盛って部屋の隅に置いた。
それを眺めつつ、同じ料理を口にする。
魚は皿に気付いているのかいないのか、依然として隅に頭をぶつけては、鱗を落とし続けている。
右を向き左を向き、しかし皿を置いた下を見るということはない。
魚を眺めながらえびを口にするのも妙なものだ、と思いつつ食を進める。
今日の味付けはやや薄い。

 すっかり料理を食べ終え、皿を洗い、元の位置に戻してもなお、魚は料理を口にしていないようだった。
かまわず眠てしまうことにした。
作品名:水底 作家名:にょす