水底
「ちがう、あなたの声ではなかった。」
それはより澄み切った声であった。
鉉を鳴らすような、この人魚の声ではなかった。
「わたしが呼んだのよ。あなたのこと。ずっと呼んでいたじゃない。」
「ちがう、私が聞いていた声は、もっと透明な響きを持つものだった。」
」わたしよ。それは。わたしよ。」
話せば話すほど人魚の存在が確かなものになったきていた。
カチカチと進む時計の針の音に混じり、鱗が乾燥し、立ち上がるパチパチという音が聞こえる。
人魚がじっと見つめてくる。黒目がちで大きな瞳は真千子に似ていた。