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水底

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 声が、聞こえたのだった。
そもそも厳しい祖母の言いつけを破り、沼へと近付いたのは、声を聞きつけてのことだった。
朱色の強い夕焼けや、突然の大雨の後、または薄紫色の雲が山を覆う早朝、野鳥たちが一斉に飛び立つ瞬間などに、ふいに聞こえる声があった。
硝子でできた鈴を鳴らすように、かすかで密やかなその響きは、耳の奥から聞こえるようであり、また、遠い山の向こうから聞こえるようでもあった。
沼に落ちる前には一層はっきりと聞こえた気がした。
いつもよりも張りつめたその声は、たしかに水の中から私を呼んでいた。
作品名:水底 作家名:にょす