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ラベンダー
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novelistID. 16841
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔(5)~(終)

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だが侯爵の目の見えない力に抑えつけられた。まるで何トンもの重い箱に押しつぶされているような強さに、アルシェは思わず声を上げた。

「アルシェ…!」

圭一も同じように抑えつけられている。
その時、1人の刑事が部屋に飛び込んできた。だが、すぐに外へ飛ばされ、ドアが音を立てて閉じた。

「圭一君!!どうしたっ!?圭一君!!」

ノックの音と共に、能田の声がした。だがドアは開かないようである。

「ドアを壊せるものはないかっ!?」

そんな声がし、ばたばたと数人の走り去る足音がした。

「…どうした?ザリアベルがいなければ、何もできないか。」

侯爵がアルシェに歩み寄りながら笑った。
アルシェは苦しさに耐えながら、目を上げて侯爵を見た。
侯爵はアルシェの肩に手を掛けた。アルシェはまるで肩を潰されるような痛みに声を上げた。

「所詮、ザリアベルも悪魔だ。…お前と組んだのも、気の迷いだったと気づいたんだよ!」

侯爵がそう言った時、歌声が侯爵の動きを止めた。
圭一が苦しさを堪えながら歌っていた。悲しい旋律の歌だった。

「…くそ…」

侯爵の手から力が抜けてはいるが、まだアルシェの体は動かなかった。
圭一は歌い続けている。
侯爵はゆっくりと体を上げ、圭一に向いた。思うように体は動いてはいないが、ゆっくりと圭一に近づいている。

「圭一君…やめろ…」

このままだと圭一が殺されてしまう。…だがアルシェには何もできない。
ただ、ゆっくりと圭一に向かう侯爵の背を見ていることしかできなかった。

その時、侯爵の体が突然天井に飛ばされた。
そして、そのまま床に落ちた。

「!!」

アルシェも圭一も驚いて、床でうつ伏せに呻いている侯爵を見た。

「誰が迷ったって?」

その声と共に、ザリアベルが侯爵の足元に姿を現した。

「ザリアベル!」

アルシェが嬉しそうに声を上げた。
抑えつけられていた力が抜けたが、アルシェも圭一も体が痺れ動けなかった。

「見損なうな。俺は道にも迷ったことはない。」

ザリアベルはそう言いながらその場にしゃがみ込むと、左手で侯爵の胸ぐらをつかみ上げ体を起こした。
侯爵は痛みをこらえながら言った。

「じゃあ、天使と組むのは自分の意思か?」
「天使だとか悪魔だとか、気にしない質(たち)でね。」

ザリアベルの言葉に圭一が嬉しそうにした。

「ただ俺が気に入らないのは…気の弱い者にしか寄生できないようなお前が、まだ侯爵でいるってことだ!」

ザリアベルはそう言ったとたん、拳で侯爵の胸を殴りつけた。…と同時にザリアベルの拳は侯爵の胸から背中へ突き抜けた。
侯爵が悲鳴を上げた。
同時に侯爵が骸骨のようにやせ細り、その骨が蒸発するように消滅した。

アルシェも圭一も驚いた表情でその侯爵の消えた様(さま)を見ていた。

「神も殺せるって…本当だったんだ…」

アルシェが呟くように言った。
ザリアベルは立ち上がり、アルシェに振り返った。

「遅くなってすまん。」

ザリアベルはそう言って、アルシェに手を差し出した。アルシェがその手を取り、ザリアベルに引っ張られるようにして、立ち上がった。

「いえ…助かりました。」

アルシェがそう言うと、ザリアベルはにやりとし、立ち上がった圭一に振り返った。

「圭一君も大丈夫か?」
「はい!お帰りなさい。ザリアベルさん。」

圭一の言葉に、ザリアベルは苦笑するように笑い、

「さっきの歌は、なんて歌だ?」

と言った。
圭一は面食らったような顔をしたが、微笑んで答えた。

「「私を泣かせて下さい」と言う、敵に捕らえられたお姫様が歌うオペラです。」
「…捕らえられた…」

ザリアベルはそう呟くと、ベッドで眠らされている、まりを見た。

「この子のようだな。」
「ええ。でも勇敢な騎士の登場で、お姫様は助かるんです。」

圭一がそう言うと、ザリアベルは少し眉をしかめて背を向けた。

「ザリアベル!」

アルシェが思わず呼び掛けた。

「どこへ行くんです?」

ザリアベルは顔だけをアルシェに向けて言った。

「一つ仕事が残っててな。…それが終わったら、お前の家に行く。バゲットを用意しておけ。」

アルシェは嬉しそうに微笑むと「了解!」と言って敬礼した。
ザリアベルは口をいがめるようにして笑うと、姿を消した。

…と、同時にドアが破られた。

「おそっ…」

アルシェがそう言いながら姿を消した。
圭一は思わず吹き出してしまった。

……

結衣子は留置所の中で、膝を立てて座り込み泣いていた。

突然、何かの気配を感じ顔を上げると、紅い目をした男が立っていた。両頬には2本ずつ長短の傷がある。

「悪魔ね…」

結衣子が言った。

「私を地獄に連れていってくれるの?」

紅い目の男は、それには答えなかった。しばらくの沈黙ののち男が言った。

「死んだお前の娘からだ」
「!!」

結衣子は目を見開いた。

「もう一度、お前の子として産まれるチャンスをくれ。」

見開いたままの結衣子の目から涙が溢れ出た。

「…確かに伝えたぞ。」

紅い目の男はそう言って、踵を返し消えた。

……

「…茶色い…」

ザリアベルが、皿の中のシチューを見ながら言った。

「なんだ?これは?」

圭一が向かいに座っている浅野の前に皿を置きながら言った。

「ビーフシチューなんです。…お口に合うといいんですけど…」

ザリアベルは少し不満げな表情をした。
圭一は申し訳なさそうに、浅野の隣に座りザリアベルを見ている。

「まぁザリアベル食べてみてよ!圭一君の手料理にまずいものはないですから!」

浅野がそう言うと、ザリアベルはうなずいてスプーンを取り、シチューを一口飲んだ。
…と同時に、眉をしかめた。

「なんだ?この味…」

圭一が一層申し訳なさそうな顔になり、浅野が驚いた表情をした。

「…お口に合わないですか?」

浅野がそう言ってから、自分もシチューを一口飲んだ。

「…おいしいけどなぁ…」
「美味(うま)い。」

ザリアベルの呟きに、圭一がほっとした表情をした。
ザリアベルは、肉を崩しシチューと一緒にスプーンで掬い食べた。

「…初めて食べた…。カレーとも違うんだな。…美味い。肉も柔らかくていい…」

そう言って、また一口食べると、バケットを手に取りかじった。

「バケットにもよく合う。」

ザリアベルがそう言いながら、美味しそうにバケットを頬張る姿を見て、浅野も嬉しそうにして、シチューを飲んだ。
浅野が思いついたように言った。

「あ、圭一君。ワインある?」
「え?あ、はい!ありますよ。…シチューに入れた残りですけど。」
「それ飲むよ。」
「わかりました。ザリアベルさんは?」
「俺は、酒は飲めない。」

浅野と圭一は驚いた表情をした。

「そうなんですか!…意外だなぁ…。」

浅野が言った。ザリアベルは困ったような表情で圭一に尋ねた。

「このシチューの中に、ワインが入っているのか?」
「ええ。でもアルコールは飛んでいますから大丈夫ですよ。酔う事はありません。」
「…そうか…」

ザリアベルは圭一の言葉にほっとして、皿のシチューをかき集めるようにして飲んだ。

「おかわり。」