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ラベンダー
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novelistID. 16841
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銀髪のアルシェ(外伝)~紅い目の悪魔(5)~(終)

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「はい!」

圭一が嬉しそうに立ち上がり、ザリアベルから皿を受け取った。

「ザリアベル…食事中に申し訳ないんですけど…。どうしてしばらく姿を見せなかったんです?」

ザリアベルは、そう言いながらワインを飲む浅野に向いて言った。

「…あの侯爵がかけていた魔術を消すのに手間取ってな。」
「そうでしたか。」

何か他にもあったのではないだろうか…と浅野は思ったが、今はあえて聞かない事にした。
ザリアベルは、本当においしそうにビーフシチューを食べている。
その姿を見ると、ザリアベルが何を隠しているかなんて、どうでもいいような気がした。

「圭一君。」

突然ザリアベルが呼びかけた。

「はい!」

浅野の空になったグラスにワインを注ぎながら、圭一が返事をした。

「…後で…あの歌を聞かせて欲しい。」
「「私を泣かせて下さい」…ですか?」
「ん。」
「わかりました。」

圭一が微笑んだ。浅野が驚いた表情をしている。

「…なんだ?」

ザリアベルが浅野に言った。

「…いえ…オペラにも興味を持たれたのかなって。」
「あれはイタリア語だったろう?」

ザリアベルが圭一に言った。圭一は嬉しそうに目を見開いて「はい!」と言った。

「途中からしか聞けなかったが…曲調と歌詞に惹かれた。」

そのザリアベルの言葉に、浅野がまた驚きながら言った。

「イタリア語わかるんですか!?」
「先進国の言葉はほとんどわかる。…今だって日本語だろう。」
「…!…考えてみれば…そうですね…」

浅野は恐る恐る聞いてみた。

「生前のお名前は?」

ザリアベルは臆することなく答えた。

「ノイツ・クロイツだ。」
「…ゲルマン系ですか。」
「そうだ。」
「…そっちの人だったんだ…」
「日本人だと思っていたのか?」
「ええ、まぁ。日本語流暢だから…」

ザリアベルは、口をいがめて笑った。

「…今はどこの国の人間でもない。…ただの悪魔だ。」
「!…」

浅野はそのザリアベルの言葉に、何か自虐的なものを感じた。
…本当は、自分が悪魔だという事が嫌なのではないかと何故か思った。
圭一が「あ、そうだ」と言って、立ち上がりながら言った。

「ザリアベルさん、後で紅茶お飲みになります?」
「飲む。」
「わかりました。」

圭一は湯を沸かすためにキッチンに向かった。

…その後、ザリアベルは圭一の歌(オペラ)を聞きながら、満足気に紅茶を飲んでいた。
その姿に、浅野はザリアベルの心の中にある悲しい何かを感じずにはいられなかった。

(終)

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挿入曲:「私を泣かせてください」

ヘンデル作 歌劇「リナルド」より