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コトコリの書庫

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 「それまで生活住居の中心となっていた熱帯雨林が減少し、サバンナ化が進む。そのことにより食料としていた果物を提供する樹木や、捕食者たちから身を隠す薄暗い茂みが姿を消してしまった・・・」

 日が傾きだし、蔵書の影が一層濃く落ちる。微細な羽虫が目の前を横切った。
『内在的景観』についての授業は続く。今朝母が焼いて持たせてくれたココナッツ入りのクッキーは、ほとんど私一人で食べてしまった。
 
 プロフェッサー・コトコリは遠い外国からやって来たと聞く。ずいぶん昔から丘の上に書庫を構えていたと曾祖母は語る。なんでも、曾祖母のまた曾祖母の子供の頃から椎の木の根元に住んでは、私たちの家系の女に「世の中のなりたち」を説いていたのだそうだ。
その中でもプロフェッサー・コトコリと恋人の関係になったのは曾祖母だけであったらしい。そのことについて、プロフェッサー・コトコリに訊ねたことはない。
 以前、母に曾祖母の写真を見せてもらったことがある。
若き日の曾祖母は、現在の私にとてもよく似ていた。

 「そうなると新たな居住区を求めて移動をしなくてはならなくなる。そうして原人の祖先たちは旅立った。各地へ散って、各地で進化を重ねたのである。
さて、それではどのような場所を新天地として求めたのか・・・それは見晴らしのよい平原である。平原は湿潤な気候に恵まれていたうえに、見晴らしがよかった。
見晴らしがよいと原人たちにとって何が有利か。最たる利点は外敵を見つけやすいという点である。
原人たちは大型肉食獣を警戒し、いざとなったらすぐに木の上や洞窟の中へ逃げ込めるように、警備の体勢を怠らなかった。現在のミーアキャットに似ていると思いませんか、カンナさん。」

 銀色の髪が西日に透かされてきらきらと輝く。逆光になり、一体どのような表情で私に語って聞かせているのかわからない。
 
 自分ばかりが老け込んででゆくことに耐え切れなくなった曾祖母は、一度プロフェッサー・コトコリと共に駆け落ちすることを決意した。
この書庫から逃げ出しさえすれば、プロフェッサー・コトコリの中の時計が、正確に回り出すのではないかと考えてのことだったらしい。
結果としてそれは叶わなかったという。詳しい事情については、祖母も母も、もちろん曾祖父とて知ることはない。
曾祖母はその時ちょうど、16であったと聞く。

作品名:コトコリの書庫 作家名:にょす