小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

春のお通り

INDEX|3ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 
 石造りの橋の向こう側に本棚が佇んでいた。木製の本棚は雨風に打たれ、少々黒ずみ、ところどころ欠けていた。本棚と言えど自ら動くことはできるはずなのだが、この本棚に至っては橋の袂から決して動こうとしない。
 そうと言うのも3段目に燕の巣が作られてしまったためである。
巣で育った燕は翌年になるとまた同じ巣へ戻って来て、卵を孵し、飛び立ってゆく。そしてまた次の年も巣で育った燕がやって来て、卵を孵す。そのサイクルに本棚が巻き込まれてしまったがために、もうこの橋の袂から動けないのだと、共におでんをつつきながら聞いたことがある。
 本棚もかつては分厚い百科事典や難しい天文学の書籍、キタキツネの図鑑など、他の本棚に自慢できるほどのすばらしい蔵書を誇っていたのだが、ある時ふいに外へ出て、春のうららかな陽気に当たりながらうとうとしていると、あっという間に燕が巣を作ってしまったのだと言う。今では3段目以外の棚に本が並べられるということもない。
冬の間くらいはお屋敷に戻ってもよいのでは、と提案してみたこともあったのだが、律儀な性格の本棚としては、雨や風、厳しい寒さに晒されてもなお、燕の帰る場所を奪うわけにはいかないのだと語っていた。
 本棚の3段目を覗くと、どうやらもう今年の燕がやって来ているようだった。本棚も少々嬉しそうにしている。
飲みかけのさくら味みかんジュースを2段目に置いて散歩を続けた。

作品名:春のお通り 作家名:にょす