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月の子供

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 何日も眠らずに過ごしていると頭が体からずれ始めた。
特に夜の3時ごろにずれるのである。
おおよその場合右にずれた後左にずれる。ずれていることに気が付き、あわてて元に戻すのだった。
 そんなことを何度も繰り返した後、ひどいずれがやって来た。
荒々しい風が窓を叩く夜のことだった。
ずれている、と思った時にはもう遅かった。
右に左にどんどんずれる。仕舞いには徐々に浮かび上がり始めるので、頭を両手で押さえにかかった。
切ったばかりの髪の毛は、掴んだと思った瞬間するりと指の間をすり抜けた。
 
 頭は体を離れ、天上近くを漂った。布団の中に横たわる自分の体を見下ろし、頭がないことを改めて確認するのだった。
髪を切ってしまわなければ、腕が頭を捕まえられていたかもしれないと考えたが、こうして浮かび上がってしまった以上、どうすることもできないのだった。
 
 壁に掛けた時計を見やると3時を少し過ぎていた。
月の子供等はやって来ていない様子だった。強風で煮干しが飛ばされてしまったのかもしれない。
しばらく頭だけでゆらゆらと浮かんでいたが、そのうち何もすることがなくて困ってしまった。窓の外では依然として風が吹き荒れている。
布団に寝そべる自分の体の上を通り過ぎ、窓の方へと近付いた。
風が吹くたびがたがたと音を立てて揺れ、隙間から入り込む冷気は両の耳を冷やした。窓にぴたりと頬をつけ、瞼を閉じて、風の音を聞いていた。

がた、と自ら窓が揺れた気がした。
作品名:月の子供 作家名:にょす