水晶の部屋
一体どんな本なのか、気になって手にとってみる。
表紙も真っ黒で、絵も作者名も、何も印刷されていない。カバーがなくなってしまった本なのだろうか。
横に長いその絵本をめくってゆく。中にも黒いページが続く。
ぱらぱらとめくった後、黄色いネコのような瞳がページの右端に現れ、次のページに移動すると消えた。
あとはやはり黒塗りのページが何枚も続き、最後に、『エミリーに捧ぐ』と記され、本は終わった。
不思議な絵本だ、と思いつつ、本棚に戻した。
まだ時間に余裕があるので、さらにずらりと並ぶ背表紙を眺めてゆく。
このあたりの本棚は図録が多い。図鑑などの分厚い本も並べられている。
『とり図鑑』『100年襖絵展図録』『アラスカ美術館展』『脚図鑑』…
脚図鑑、が一体どんなものなのか気になったが、僕の興味はその隣の、周囲の本よりもより一層ぼろぼろの背表紙をもつ本へと移っていった。
深い紫色の背表紙には、流麗な文字で『魔女図鑑』と印刷されていた。
どのくらい古い本なのだろうか、あまりにも痛んでいたので、壊してしまわないように慎重に取り出して表紙を眺める。
魔法陣のような円形の模様が大きく描かれ、何語かわからない字で囲まれていた。
本を抱えてページをめくる。
ページ同士がはがれにくくなっている。破いてしまわないように、端からそろりそろりとはがしてゆく。
表紙に描かれていたような魔法陣の図解が何ページか続き、高名な魔女の名簿と似顔絵の章に入った。数百人分の名簿が続く中、一人だけちいさな女の子の似顔絵が描かれている。
「エミリー・ナツメ」とローマ字で名前が記され、どのような功績を残したのか、という説明が書かれている。それによると、
「幾人もの魔女が挑み続け、完成させることは困難とされていた幻の高霊水晶の部屋を、世界最年少の魔女が作り上げた。星々が瞬く高霊水晶の部屋においての占星術はグランドマザー・アレトラの的中率に並ぶ、云々」
とのことだった。
僕には理解のできない用語の羅列や魔法陣の説明、祭り事の執り行い方、その際の注意点の説明、動物の扱い方、などが続き、次第に何ページも飛ばして本をめくるようになった。ばたん、とページをめくると、細かい埃が宙に舞った。
分厚い本も終盤にさしかかった頃、いつのまにか少女が隣に立っていることに気が付いた。
表紙も真っ黒で、絵も作者名も、何も印刷されていない。カバーがなくなってしまった本なのだろうか。
横に長いその絵本をめくってゆく。中にも黒いページが続く。
ぱらぱらとめくった後、黄色いネコのような瞳がページの右端に現れ、次のページに移動すると消えた。
あとはやはり黒塗りのページが何枚も続き、最後に、『エミリーに捧ぐ』と記され、本は終わった。
不思議な絵本だ、と思いつつ、本棚に戻した。
まだ時間に余裕があるので、さらにずらりと並ぶ背表紙を眺めてゆく。
このあたりの本棚は図録が多い。図鑑などの分厚い本も並べられている。
『とり図鑑』『100年襖絵展図録』『アラスカ美術館展』『脚図鑑』…
脚図鑑、が一体どんなものなのか気になったが、僕の興味はその隣の、周囲の本よりもより一層ぼろぼろの背表紙をもつ本へと移っていった。
深い紫色の背表紙には、流麗な文字で『魔女図鑑』と印刷されていた。
どのくらい古い本なのだろうか、あまりにも痛んでいたので、壊してしまわないように慎重に取り出して表紙を眺める。
魔法陣のような円形の模様が大きく描かれ、何語かわからない字で囲まれていた。
本を抱えてページをめくる。
ページ同士がはがれにくくなっている。破いてしまわないように、端からそろりそろりとはがしてゆく。
表紙に描かれていたような魔法陣の図解が何ページか続き、高名な魔女の名簿と似顔絵の章に入った。数百人分の名簿が続く中、一人だけちいさな女の子の似顔絵が描かれている。
「エミリー・ナツメ」とローマ字で名前が記され、どのような功績を残したのか、という説明が書かれている。それによると、
「幾人もの魔女が挑み続け、完成させることは困難とされていた幻の高霊水晶の部屋を、世界最年少の魔女が作り上げた。星々が瞬く高霊水晶の部屋においての占星術はグランドマザー・アレトラの的中率に並ぶ、云々」
とのことだった。
僕には理解のできない用語の羅列や魔法陣の説明、祭り事の執り行い方、その際の注意点の説明、動物の扱い方、などが続き、次第に何ページも飛ばして本をめくるようになった。ばたん、とページをめくると、細かい埃が宙に舞った。
分厚い本も終盤にさしかかった頃、いつのまにか少女が隣に立っていることに気が付いた。