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水晶の部屋

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バイト先の近くに古本屋がある。
ずいぶん昔から営業しているのか、古めかしい看板が掲げられ、店の壁面は濃い緑色をしたアイビーに覆われていた。
 ちいさな店構えだが、中に入ると所狭しと本が並んでいる。
新書や写真集、図録、雑誌、漫画など、さまざまな本が、一応のところ区分され、並べられているのだろうが、一見しただけではどんな本がどこにあるのだかわからない。
この区分けを完全に把握しているのは、店番をする少女だけであろうと思われた。
 店番の少女はいつも黒いワンピースを着て、某かの本を読んでいる。
客がやって来ても得に声をかけるなどということはしない。ラジオや音楽も流れない、とても静かな店だった。
 
 バイト先に早く着いてしまった時は、よくこの古本屋に入って時間を潰す。中に入ると、店内のみが外界から遮断された、なにか特別な空間のように感じられた。
僕はよくここで新書を買う。今までは、生物の進化についての本や、細胞を80万倍で観察する、といった趣旨の本を買った。
新書を新刊で買おうとすると、すこし高いので戸惑うのだが、ここではどれも100円で売られているので、気兼ねなく手にとることができた。
 生物についての本はとても興味深い。決して専門的に学習しているわけではないのだが、高校の頃、授業で習った進化の話に感銘を受けて以来、このような本を好んで読むようになった。

 今日もすこしの間この書店に立ち寄ることにした。
相変わらず店内はしんとして、さまざまな本が天上までうず高く並べられている。一歩進むと床がきしむ。古い本の匂いに満ちた空気を深く吸い込んだ。
少女はやはり黒いワンピースを着て店番をしている。僕が入って来たことに気が付いているのかいないのか、文庫本を読み続けている。三つ編みの長い髪が一筋、肩に垂れ下がっているのが見えた。
 僕はだいたいいつも新書が並んでいる入り口近くの本棚の前で背表紙を眺めた。合間に漫画本が挟まるなど、相変わらずよくわからない並べ方がされている。
ざっと見たところ、特に新しく入った本はないようだった。あまり訪れる人が居ないのだろうか。
 さらに奥の本棚を見て回ることにする。
次の本棚からは一層よくわからない本の並びになってくる。おそらく写真集を中心に揃えてあるのだろうが、統一感もなく雑誌が挟まっていたりする。
『渓谷の秋』という大型本が本棚からはみ出していたので手に取ってみる。
少し古い本なのだろう、カラー写真が載せられているのは最初の数ページのみで、あとは白黒の写真ばかりが続いていた。ページの端に黄色いしみがついている。
赤や黄、橙色に染まった山の写真を眺めたあと、元の位置に戻した。
 他には何かおもしろい本がないか、と思いつつ、本棚を見て回る。
絵本が数冊置いてある棚の前に立ち、背表紙に何も文字が書かれていない黒い本を見つけた。
作品名:水晶の部屋 作家名:にょす