My fair lady
「お嬢様も大きくなられましたね、ヴァイル様」
ヴァイルは使用人の言葉に答え
「そうだな。この樹も、もうこんなに大きくなって」
と庭に植わった一本の樹に手を当てる
その一本の樹は、アイリスの産まれた時に植えた記念樹で
その背丈はヴァイルをはるかに凌ぐものになっていた
ドタドタッ
急に、とてもせっかちに鳴る足音が2人の下へと近づいてきた
「・・・ヴァイル王!」
足音の主は息を荒げてヴァイルの名を呼ぶ
「何だね、騒々しい」
「お耳に入れておきたいことがありまして」
「ほう?何か問題でも」
「はい、隣国のルガント王が・・・」
ヴァイルは手を出して話を止めた
「あやつのことはもう聞いておる。また何か企んでおるのだろう」
「は、はぁ・・・」
男は少しきょとんとしてヴァイルを見上げる
「また何か動きがあれば教えてくれ」
「はっ!承知いたしました」
行ってよい、というヴァイルの言葉で男は部屋から退室した
「ルガントも懲りないな」
ヴァイルは少々呆れたような声でそう漏らした
「ルイ」
「はっ。如何なさいましたか」
部屋のどこからか、青みがかった黒髪の若い青年が現れた
「ルガントのやつノ警戒を強めておけ」
少し声を強めて内の憎しみを垣間見せた
「承知いたしました」
そして、ルイと呼ばれた青年は部屋のどこかに消えた
「何もなければいいのだが、そういう訳には行かないだろうな」
机に置いてあった新聞の紙面見ながら呟いた
「そうですね、よりによってこの時期・・・となると余計でしょう」
紙面を睨みつけながら、深くため息をつく
「こちらの警護も増やす必要が出てきそうだ」
そう吐き捨てた後、元あった机へ無造作に新聞を置いた
その新聞の紙面にはこう書いてあった
―――聖誕祝祭の準備、いよいよ始まる
作品名:My fair lady 作家名:ひさぎ