My fair lady
trios
「らんっら、らんらん〜」
アイリスは植木鉢に移し変えたコスモスを手に裏庭で上機嫌に踊っていた
「ら〜ら〜ん、らっら〜」
興奮しすぎているためか、その声は妙に甲高く、音が所々外れていた
「おぉっと」
右足を手前につっかえて躓いてしまった
「危なかったー」
なんとか体勢を立て直すと、また踊りだす
「らんっらん」
さっきよりも少し用心深くなりはしたものの、たどたどしいのは変わらなかった
「お嬢さん」
不意に裏庭の外から声がした
その声でアイリスは踊りをやめて振り返る
「とってもご機嫌ですが、何かあったんですか?」
声の主は若い優しげな男だった
その姿はルイに似た・・・しかし、雰囲気がまったく違うとても優しい緑の目をしていた
アイリスははっと顔を赤くして縮こまる
「いや、あのぅ・・・」
今までに見せなかったとても華奢な声で言葉を詰まらせていると
「そんなにも恥ずかしがらずに」
縮こまった彼女に優しく微笑みかけてくれた
「コ、コスモスです」
もじもじしながら口を開く
「ピンク色のコスモスが偶然咲いたんです」
男はそれに
「へぇー、それは凄い。でも、ピンク色のコスモスは主流じゃないかな?」
「そうなんですけど、私の家の庭には白しか咲いてなくて」
「へぇ、じゃあその花は紅一点ってわけだ」
「そうです」
話を聞いてくれてアイリスは嬉しそうに微笑む
「アイリス!」
「は、はい?」
家の中から彼女を呼ぶ声が聞こえてアイリスは戸惑いながら返事を返す
「えっと・・・どうしよう・・・あの、」
「行ってきていいよ、また今度お話しよう」
「はいっ!」
彼の優しさに満面の笑みを浮かべてアイリスは家の中へと戻っていった
「・・・ほんとに、そっくりだ」
と声を漏らして、彼もその場を去った
作品名:My fair lady 作家名:ひさぎ