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夢一匁

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「僕の家のものです。どうぞ、乗って下さい」
 そこに由岐家の使用人が姿を現した。最初は怪訝な顔で真咲を見ていたものの、何かに気付いてはっと目を見開く。
「桜様、この方は……」
「ああ、あそこの桜の下で会ったんだ。それよりこのまま鳴屋へ行ってくれ。今日は父上もいるだろうし丁度いいだろう」
 遮るようにまくしたてた桜の様子に、賢い使用人は「かしこまりました」とだけ言うと下がっていく。訳が分からないのは真咲のほうだった。
「桜さん? 丁度いい、とは……」
「着いたら話します。それまで待っていてくれませんか?」
 それきり緊張したように黙り込んだ桜に、真咲は何も言えないまま馬車の外の景色が変わっていくのをただぼんやりと眺めていた。
作品名:夢一匁 作家名:深月