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むべやまかぜを 風雲エターナルラブ編3

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 三神智仁は本当に変わった男である。まあ、今のところ実害はないようなので小娘も鉄拳に訴える必要は感じていないが……。
 「これは……タイニーはきっと良い作品に仕上がるでしょう。それは間違いありません」
 「……そうだといいんだけど」
 物書きヤクザは何時になく防戦一方である。なんとなく調子の合わない相手というものもいるのだ。これが相手がオタク教祖の大村あたりであれば、得意の罵声で撃破するのであるが……。そして。三神は顔をしかめて言った。
 「売れないと良いのですが……」
 「……うん……はあ?」
 もの書きヤクザはさらりと流しかけて、それから素っ頓狂な声をあげた。
 「売れると良いの間違いっしょ?」
 「いいえ。売れないと良いと言ったんです」
 「なんじゃそりゃ?」
 小娘はぼんやりとしている。相手が何を言ったか理解できないのだ。
 「たくさんの客に売れる。十万本二十万本。それはプロデューサーとしては幸福なことです。商売としては大成功ですから。ですが、作り手としては悩ましい」
 「……なんで?」
 「作品が私だけものではなくなってしまうではないですか。みんなのもの。蓮沼つかさも日比谷美紀もみんなのものになる。十万人のもの。二十万人のもの。私の手の届かないものになってしまいます。それは、非常に腹立たしい」
 「……」
 「自分の娘にはなるべく家の近くの男性と結婚をして欲しい。すぐに顔を見られる場所にいて欲しい。父親とはそういうものです。ですから、私としては、売れるならば売れるで、八十本ぐらいが上限であればいいと思うのです。もちろん採算割れですが……」
 「八十人ぐらいで共有するのならば……まあ、我慢もしましょう。けれどそれ以上は、非常に心苦しい……」
 「あんた、どうかしてるよ……」
 丸山花世は呆れている。
 ――こちらも我慢がならないし、あちらも我慢がならない。
 というのは真実であったか。
 「そうですね。どうかしています。でも……本当に良い作品は売りたくないものです。本当に素晴らしい作品は手元に残しておきたい作品。そしてまたそういう作品でないと売れないのです」
 三神は静かに言った。おかしなプロデューサーの意見は……実に筋が通っている。