看護師の不思議な体験談 其の七
先輩スタッフOさんの話です。
現在、当院は2交替制にて勤務している。数年前は3交替制をとっており、だいたい日勤:8時から17時、準夜:16時から1時、深夜:0時から朝9時という3種類の勤務だった。3交替制の勤務をとっていた頃の話。
病棟には、ターミナル(終末期)の男性患者様がおられた。胃癌からあちこちに転移、口から食事はほとんどとれず、IVHという持続点滴がなされていた。痛みもすっきりとれることはなく、モルヒネでコントロールしていた。
痛みがあってもいつも訴えることはなく、じっと我慢している患者様だった。入院時から、とても静かでおだやか、紳士的な患者様で、独身なのが不思議だった。
もっと看護師にいろいろ頼ってもらっていいのだが、
『できるだけ自分のことは自分でします』
と言い、いつも前向きな方だった。
看護師のOさんは、深夜勤務のため0時に病棟へ到着。準夜スタッフからの申し送りを聞き、患者様全員に特別な変化はないことを確認した。ある程度の情報収集をし、重症患者の巡回にまわる。
その後、個室を回り、最後に大部屋へ。
ターミナルの患者様のベッドを見ると、姿がなく、トイレに行ったのだろうと、Oさんは思った。けれども、何だかそのベッド周りに違和感を感じて、立ち止まった。
懐中電灯でしっかりと照らす。
ふとんがきちっと畳まれ、枕とともに足元に積んであった。
嫌な考えが一瞬よぎりながら、床頭台のあたりを照らした。そこには24時間持続点滴していたIVHが、接続部からはずされ、ルートも丸めてきれいに点滴台にかけられていた。
作品名:看護師の不思議な体験談 其の七 作家名:柊 恵二