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看護師の不思議な体験談 其の六

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さて、同期のKさんが看護師3年目の時の話です。

その日、Kさんは夜勤。ターミナルで今夜ステるだろうという患者様がおられた。大腸癌からあちこちに癌が転移し、モルヒネやソセゴンで疼痛コントロールしていた、80歳の 男性患者様。一人娘さんとお孫さんに囲まれてその日を過ごしていた。
いつ亡くなるか分からない連日の緊張と介護で娘さんも、さすがに疲労がみられていた。
Kさんは患者様へはもちろん、娘さんにも優しい声をかけ、できるだけ負担を減らそうと支援に当たっていた。

先輩スタッフはKさんを手招きしてナースステーションまで呼んだ。
「先に仮眠しんさい。」
「でも…いつステるか分からないし。」
Kさんは、入院時から患者様の担当であり、思い入れがあった。
先輩スタッフは大きくため息をつく。
「あんたの受け持ってる患者様は一人だけじゃないんよ。気持ちはよく分かるけど、だからといって他の患者様のケアを怠るわけにはいかないの。」
「それは分かってますけど…。」うつむくKさん。
「厳しいこと言うかもしれんけど、一人の患者様のために、あんたが倒れたら、他の受け持ちの患者様のケアはどうするの。他のスタッフにも迷惑がかかるし。もう3年目なんだから、まわりの状況もちゃんと見なさい!」
「はい…」
 先輩の厳しい声の意味は十分理解ぢていた。しかし気持ちがついていかない。
「ステルベンの患者様はあんたにまかせる。けど、そのためにも今休みなさい。冷静な判断と対応ができるように。」
「はい、わかりました…。」
「レート(心拍)が変化したらちゃんと起こすから。」
先輩にそういわれ、Kさんは短い仮眠をとることにした。普段はカンファレンス等に使用する狭い一室を仮眠室として利用している。
 壁にくっつけるように簡易ベッドを広げる。かすかにモニターの『ピッ、ピッ、ピッ…』という規則的な音が聞こえる。
(休めときにちゃんと休んでおかないと…)
 気持ちは焦りながらも、先輩の指導を守ろうとした。
 扉を閉め、硬いベッドへ横になった。
 目を閉じると、疲れからうとうとし始めた。