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つるさんのひとこえ 4月編 其の一

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4月7日


  
4月7日(木)晴


 時刻は午前七時十五分。予め決められていた集合時間の十五分前に学校に到着した。部室の鍵を預かっている身、まして新入部員としては、これくらいの時間に登校するのは当然だろう。それにしても今日は一段と冷える。せっかく早く来たんだし、部室に着いたら少し暖めておこうか。気が利く後輩を演じるのも悪くない。
 二階三階と階段を上って、ようやく部室のある四階。目的の集合場所まであと少し。
 「ん?」
 遠目に見える部室から、朝の光に混ざった人工的な光が廊下に漏れている。
 「ちゃんと電気消して帰ったよな」
 記憶を辿りながら部室の鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。
 右手を捻るのと同時にガチャリ。と、鍵が解除される音がするはずだった。が、予想に反して耳に入った音は部室の中からの声。
 「空いてるぞ」
 閉め忘れた?今のは紛れもなく中からの部長の声。威圧感のある声はドア越しにでも容易に分かる。
 「お、おはようございます」
 よし。とにかく鍵をかけ忘れたことを謝ろう。先手必勝。先にきちんと謝ればきっと許してもらえるさ。保証はないけど。
 「あの、昨日は鍵かけ忘れてしまってすいませんでした!次からは気をつけます!」
 謝罪と同時に深々と頭を下げ、精一杯の誠意を示す。これでダメなら虫のように這い蹲って許しを乞うまでだ。
 「そうなのか?私が来たときにはしっかり鍵はかかっていたぞ?」
 何ですと?というか、どうやってこの中に入ったというのですか?そんな言葉が僕の顔にはっきりと聖痕のように浮かび上がっていたらしい。
 「私はこの部室の鍵を個人的に所有しているのだよ。だからさっきもその鍵を使ってここへ入ったのだ。おおかた、君は私がこの鍵を持っていることを知らなかったために、先に部室に私がいる現状から鍵をかけ忘れたと思ったのだろう。違うか?」
 全くもってその通りでございます。ていうか個人的にって!ここ部室ですよね?学校の教室ですよね?
 「部長なのだから鍵くらい持ってるさ。しかし、だ。早とちりしたとはいえ、自分から謝ることができるのは素晴らしいことだ。やはり君を我が部の部員にした私の目に狂いはなかったようだな。ところで、今日の活動は校内巡視なのだが、どういうことをするか鰐木田から説明は受けているか?」
 「聞いてないです。昨日は部長の後を追いかけるように帰っていきましたから。――あれ?さっき僕喋ってました?」
 「目は口ほどにものを言う、そんな諺を知っているか?――まあいい。説明がまだなら私が代わりに」
 「おはようございます」
 部長からの有り難い説明を遮る、絶妙のタイミングで鰐木田先輩と月極さんが部室に登場。月極先輩の手には、普通の女子高生が持つにしては大きすぎる荷物が握られている。
 「ちょうどいい。鰐木田、今日の校内巡視の説明をしてくれ」
 「分かりました。それでは初めての犬島君でも分かるように説明します」
 お願いします。
 「我々の部活動は昨日もお話した通り、日々の記念日をこの学内に浸透させようというものです。ここまでは覚えていらっしゃいますでしょうか?いいでしょう。では次に、今日は何の日なのか?おそらく、犬島君はご存じではないと思いますが、本日、四月七日はWHOが設立された記念日で、世界保健デーに制定されています。そして一九八八年の今日、WHOの設立から四十年を記念して制定された第一回世界禁煙デー、というわけです。従って、本日の我々の活動、校内巡視における目的は校内喫煙の徹底排除です。これは学生、教師共に対象とします。ここまでで何か質問はありますか?」
 「あの、禁煙の対象が教師っていうのは分かるんですけど、学生まで対象に入るというのはどういうことなんですか?」
 思ったことをそのままぶつけてみた。
 「言葉通りの意味です。もちろん、普通の学生は煙草なんて吸いません。しかし、つい先日、この学内の男子トイレで煙草の吸い殻が見つかりました。職員用の喫煙所がありますから、教職員のものだとはまず考えられないでしょう。従って残念なことではありますが、その吸い殻の主は学生であると考えるのが妥当ではないでしょうか。さて、前置きの説明が長くなりましたが、ここからが本題です。どのようにして校内巡視、つまり禁煙のアピールを活動するかのか、です。そして僕の説明はここまで。あとは鶴瀬さんの方からお願いします」
 「説明ご苦労。それでは本日の活動内容だが月極、例の物を出してくれ」
 そう指示された月極さんは、あの大きな荷物の包みを開け、黒い塊を取り出した。
 「今回はこれを使って活動する」
 月極さんが取り出したそれは、アクション映画やハードボイルドな刑事物のドラマなんかでよく目にする、所謂機関銃、或いはサブマシンガンと呼ばれている物。
 「月極さん!これってもしかして――?」
 「そうですよ。犬飼君の分も準備してありますから」
 愕然とした。笑顔で部員にそれを配る月極さん。というか、これって犯罪でしょう!
 「部長!こんなの、どうするんですか?!」
 「どうするも何も、危なくなったら使うのだ。我々の活動は多くの学生達に支持されているが、それを快く思っていない連中がいるのも事実だ。滅多にないことだとは思うが、そういう連中と争いになったとき、何もないよりはいいだろう」
 「そうかもしれませんけど――というかこんなの持ってたら警察に捕まりますって!」
 「これはそうそう使うものでもないから安心したまえ。それに私達を誰だと思っているのだ?まあいい。それではそろそろ本日の活動スケジュールを伝える。まずこれからだが、学生用玄関及び職員用玄関にて煙草の持ち込みがないか所持品の検査を行う。言うまでもないが、もし見つけたら没収して構わん。例え教師や先輩であろうとだ。配置については私と鰐木田が学生用玄関、月極と犬島君は職員用玄関とする。そして次に昼休みだが、鰐木田が一階、私が二階、月極が三階、そして犬島君には四階を巡視してもらう。以上だ。ではまた放課後に会おう。鰐木田!行くぞ!」
 言いたいことだけ言うと、鰐木田先輩と行ってしまった。もちろん、物騒なあれを持って。
 「私達もそろそろいきましょうか」
 麗しの月極さんにそう促され、足取り重く担当場所へと向かった。もちろん、僕たちも物騒なあれと鞄を持って。

 職員用玄関で検査の準備を終え、玄関脇で物騒なこれを肩から下げて立っている僕と月極さん。さながらどこかの国の軍基地の門兵。この法治国家日本で何故このような武装をしなくてはいけないのか。
 「おはようございます。こちら年間行事部ですが、禁煙の日ということで煙草を所持しているかどうかの検査、よろしいでしょうか?」
 絞りかすしか残っていないレモンのような頭を回転させて今の自分の状況を確認中、早速の一人目。風貌通りの体育教師。
 「朝からご苦労さん。ほら、見てくれ」
 広げられた黒いセカンドバックの中にはジャージと筆記具が詰め込まれていただけ。
 「ご協力ありがとうございました」
 「ああ。それじゃ、頑張れよ」