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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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アイシテルのカタチ

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「あなた、わたしを覚えていて?」
「はい、この前、京介さんのオフィスで」
京介さん、と呼んだ瞬間に顔をしかめられるのがわかった。
「あなたは、京介さんの何ですの?」
ここで、生き別れた弟です、くらいのジョークがいえるような性格だったらどんなに楽だろう。
恋人だなんていってこの人を逆上させるのもバカみたいだし、でも僕たちの関係を適切に表す言葉が見つからない。
「いえないような関係なのかしら?」
この質問に正直に答えるとしたら、はいと答えるのだけど。
「京介さんが私になびかないはずだわ。こんな子供が趣味だったなんて。あなたが京介さんを惑わしたのでしょう?痛い目を見たくなければ今すぐ京介さんの近くから消えると約束しなさい」
命令することになれきった口調。世界はすべて自分の思うとおりになると思っているに違いない。
「できません」
「どうして!」
間髪入れずに、そう叫ばれた。
「あなたさえいなくなれば、京介さんは私のことを好きになってくれるわ」
この自信はいったいどこから来るんだろう。
「京介さんは僕にとってすごく大切な人です。だから京介さんから離れることなんて考えられません」
「大切?どういう意味で大切なのかしら。あなたのことはある程度調べさせてもらったわ。両親もいなくて、田舎から特待生で東京の高校に出てきたんですってね。お金に困っていたところを京介さんに出会って助けられた。間違ってるかしら?」
「・・・そのとおりです」
「あなたは京介さんが大切なんじゃなくって京介さんが恵んでくださるお金が大切なのではなくて?」
いつか、こういうことを言われる日が来るんじゃないかとは思ってた。
「そんなことは、ありません」
こういっても信じてもらえないだろうってことはわかったけど、これ以外に言うべきことが見つからない。
「そんな言葉が信じられると思っていて?」
案の定、通じるわけがない。
「一緒に暮らさせてもらって、いろんなものを買い与えてもらって。でも、それはあなたが可哀想だから優しい京介さんはあなたを放っておけなかっただけよ」
ざっくりと、そういわれた。
翔大とて、京介の思いはただの同情なんじゃないかって思ったことは何度もある。
それでも京介に説得され、やっとそう思わなくなった。
「物珍しかったんでしょうね。あなたみたいな育ちが。その穢れなさが」
「え?」
「ご存知かしら?人は真っ白なものに弱いでしょう?保護したくなり、また自分の手で汚したくもなる。京介さんと全く違う環境で育ったあなたは京介さんにとっては純白だった。例によってあなたを保護したわ」
「・・・何の話かわかりません」
「わからなくて結構よ。要はあなたが純白で無くなればいいの。いくら美しい純白であっても一点の染みがついた瞬間にそれは価値を失うわ」
さっきから、なにを言っているのか、この人は。
お嬢様が僕の後ろにいる外国人へとアイコンタクトをとった。
二人で英語で何か会話をする。
聞こえなければ幸せだったんだろうけど、今通っている高校の英語の授業の賜物で聞き取れてしまった。
『やってちょうだい』
『いいのか、こんな子供』
『あなたの好みでしょう?このくらいの子が』
『亜矢子は僕の好みをよくわかっててくれて嬉しいよ。それで、どこまでやっていいんだっけ?』
『好きなところまでやれば良いわ。キスマークかなんかつけといて頂戴ね』
なにをされるのかが、その言葉ではっきりしてしまった。
この人の言う『穢れなさ』がそういう意味なら、京介さんに出会う前から僕なんてもう染みだらけなのに。
それでも、後ろから近づいてくる足音を聞くと体が強張る。
逃げなきゃいけない、そう考えるのに体は動かなかった。