アイシテルのカタチ
10
最初は体がすくんで、動かないんだと思った。
けれども、すぐに違うことに気づく。
恐怖で動かないのとは違う。どちらかというと、手足にほとんど感覚がない。
立ち上がろうとするけれども、感覚のない脚ではすぐに床にひざを着いた。
『亜矢子、なにをしたの?』
『お茶に痺れ薬を入れただけよ、一口しか飲んでないのなら体の末端しか効いてないでしょうけど』
『それは逆に好都合かな。感じる部分と頭だけはしっかりとしていてもらわないと僕もつまらないから』
『それはよかったこと。終って始末が済んだら連絡してね』
そういい置いて部屋を出ようとしたけれど、一度だけ振り返る
「あなた、英語は聞き取れるのかしら?」
勝ち誇ったような声。
何も答えなかった。けれども笑いながらその人は部屋を出て行った。
「ごきげんよう」
そういい置いて。
自分の意思でひざを曲げることもひじを曲げることもままならない体は簡単に持ち上げられた。
横抱きにされて、隣の部屋のベッドに横たえられる。
そこから逃れようとめいっぱい動いてみたけれど、それはかなわなかった。
ベッドルームの扉が閉ざされ、足音が近づく。
不自由な体をめいっぱい動かそうとしても、何もできない。
『そんなに暴れなくてもいいよ、翔大』
優しそうな声。ひざを割られて、足の間に相手の体が入る。
あまりにも無防備な自分と、自分をどうにかしようとする相手の力の差は圧倒的。
シャツのボタンをはずされても何一つ抵抗できなかった。
肌をまさぐる手を耐えるよりほかに仕様がない。
「・・・きょう、すけ・・さんっ・・」
その言葉がなにを思って口から出たのかはわからないけれど、今目の前にいる相手を不快にさせたことだけは明らかだった。
『セックスの最中にほかの人間の名前はだめだよ』
諭すようにそう言う相手は、胸の突起を舐め上げてきた。
「・・やめっ・・・」
気持ちが悪いのか、それともこんな相手でさえ自分が感じてしまっているのか、よくわからないまま相手の舌での愛撫を受け続ける。
『そういえば、亜矢子に頼まれてたことがあったかな』
鎖骨のしたあたりを強く吸い上げられた。痛みに顔をしかめる。
赤い跡が残されていることは想像がついた。
カチャ、と金属が鳴る音がした。
自分のベルトに相手の手がかかっている。
動かない手足を必死に動かして抵抗してみるけれども、ものともされずにベルトがはずされ、チャックの開く音がした。
『暴れないでって言ってるのに』
言って、服の上から足の間を撫で上げてくる。
「・・・や、だ・・・っ」
抵抗を続けているのに、触れてくることをやめようとしない。
嫌悪がつのって、眼を硬く閉じると、自然に滴が零れ落ちた。
『泣くのはやめてよ、翔大』
相手の指が涙を掬い取った。
その時に、声が聞こえた。
あまりのあり得なさに幻聴かとすら思った。
「翔大っ!」
ベッドルームのドアが開け放たれた。
作品名:アイシテルのカタチ 作家名:律姫 -ritsuki-