アイシテルのカタチ
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翔大はA4のでかい封筒が入るバックを探したけれど見つからず、やむなく高校の指定かばんにそれを詰め込み、財布をポケットに詰め込んで家を出た。
駅まで徒歩3分、京介のオフィスのある新宿まで電車に乗ること約15分でしかも乗り換えはなし。
本当に恵まれたところにすんでると思う。
「・・・こんなに贅沢な暮らししてていいのかな」
昨夜の喧嘩もそれが原因だった。
電話で京介が何事もなかったように接してくるからこっちもそうしたけれど、あの件のことをあのままうやむやにはしきれないだろう。
「でもそこは譲っちゃいけない気がするし・・・」
昨日はつい感情に任せていろいろ言ってしまった。本当はバイト先なんてきまってもいない。
「ちゃんと話し合うしかないのかなあ・・・」
すこしくらいならバイトしても無茶じゃないこととか、言わないといけない。
そんなことを考えているうちに、オフィスへと着いた。
綺麗で大きいビルは人の出入りも激しい。
男の人は皆スーツだし、女の人もきちんとした格好をしてる。
場違いだ・・・早く帰りたい。
「すみません、宮妹専務を呼んでほしいんですけど」
「はい、失礼ですがどのようなご用件でしょうか?」
受付のお姉さんはこんな私服姿の子供みても顔色一つ変わらない。
「忘れ物を届けに来たんです」
「お名前をいただいてもよろしいでしょうか?」
「明石翔大です」
「今、専務をお呼びいたしますので、どうぞそちらのロビーにおかけになってお待ちください」
「はい」
と返事はしたものの、なんかロビーに座ってゆったり待つのは場違いすぎる気がして、ソファの周りをそわそわと歩き回っていた。
少しして、ロビーがざわめいた。
なんだろうと思って騒ぎのほうをみると、一人の女性が受付に向かって歩いている。
確かに綺麗だし服も高そうだけど、そんな騒ぐほどの美貌じゃない。
ロビーのソファに座っていた男性二人の話し声が耳に入ってきた。
「おい、あれって、鳳堂物産のお嬢様じゃないか?」
「でもお嬢さんは事業にはかかわってないんだろう?なんでこんなとこに?」
大事な取引先のお嬢さんってとこなのかな。よくわからないけど。
注目されながらその女の人が受付へとたどり着く。
「宮妹専務はいらっしゃるかしら?」
えっ!?宮妹って京介さん!?
「失礼ですが、どのようなご用件でしょう?」
「お食事をご一緒しようと思ってまいりましたの」
「アポイントはおありでしょうか?」
「・・・これからよ」
「宮妹はただいま取り込んでおります」
「あら、会ってみないとわからないじゃない」
・・・なんだろう、あの人。
大人の世界じゃあアポイントを取らないとえらい人には会えないってことくらい高校生でも知ってるのに。アポなしで、しかも受付であんなわがままを言うなんて。
「箱入りのお嬢様も困ったもんだよな」
「受付のお姉さん困ってるねえ」
「鳳堂物産のお嬢さんが専務にお熱って噂、本当だったとはなあ」
「専務もたいへんだな、こりゃ」
そんな会話がなされているうちに、受付での応酬は、そろそろ終わりの模様。
「次はアポイントをお取りになってからいらしてください」
「そんなもの、とらなくっても、私と京介さんの間には・・・」
間には、なんだっていうんだ。
作品名:アイシテルのカタチ 作家名:律姫 -ritsuki-