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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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アイシテルのカタチ

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冬の深夜の風は、身に沁みる。
さっきの少年には悪いことをしたかもしれない・・・と思っていると、私服に着替えた彼が、店の裏側から出てきた。
「あ・・・」
「さっきの・・・」
若干の申し訳なさは感じたものの、法律を破っていたのは向こうなのだから、そのまま無視して去ればいいのに、口が勝手に動いた。
「教科書代、大丈夫か?」
「教科書代だけじゃなかったんですけど・・・。家賃も滞納中ですし。それに、この時間じゃ電車もなくて家まで帰れないし、途方にくれてるところです」
帰れなくて途方にくれてる、というところは置いておくことにして、気になったのはその前の部分。
「ん、家賃・・・?」
「一人暮らしなんです。学校にばれたらまずいですけど」
「親は?」
「僕が小さい頃、借金取りに追われて夜逃げしました」
「じゃあ、君を育てたのは?」
「独身の伯父です」
「その人は?」
「秋田県にいますけど」
「なんで君だけ東京に?」
「1秒でも早く、あの家を出たかったからです」
「なんで?」
「僕は近親相姦の趣味はないんです。『育ててやってるんだから、感謝しろよ』そう言われながら体を触られるのって、どんな気持ちがすると思います?」
「それは・・・」
大変だったな、とか・・・そんな言葉をかけるには、重すぎる事情。
かける言葉がみつからなくて、固まっていると、目の前の少年がくすくす笑い出した。
「すみません。こんなにすんなり知らない人に秘密をばらしちゃうなんて・・・自分でもびっくりして」
逆に、もう2度と会うことがないと思っている他人だからこそ、それを言えたのだろう。
「・・・悪かった」
「バイトのことですか?もういいですよ。なんか、あなたと話せて僕もすっきりしましたから」
「それなら・・・タクシー代くらい」
京介がコートのボタンをあけて、財布を出そうと内ポケットに手を入れる。
「やめてください。歩けば帰れますから、気にしないで下さい」
そのまま背中を向けて、反対方向へ歩いていこうとした。
今度こそ、そのまま放っておけばよかったのだ。
なのに、今度勝手に動いたのは、口ではなく腕だった。
がっしりと、彼の腕をつかんでいた。
「家、どこなんだ」
それをきいて、彼の口から出たのは、とても歩いて帰れるような距離じゃなかった。
「ソファでもいいなら、うちで寝てもいい」

結局、そのときはベッドを翔大に譲って、自分はソファで寝たのだけれど。

明日になったら関係のない人間に戻る、そう思っていたのに・・・そういうわけにもいかなくなった。

彼を泊めた翌日は土曜日。昼まで寝ていたら、台所から音がした。
「すみませんけど、勝手に使わせてもらいました」
テーブルに並んでるのは、健康的な昼飯。
外食やコンビニ以外の食べ物は久しぶりだった。
「・・・おいしいな」
心から、そう思った。不健康な生活をしている体にしみたる。
「ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」

その食事のお礼をしなくてはいけないと思った。

後日、外食に誘ってご馳走すると、そのお礼とにまた食事を作ってもらった。
そしてそのお礼にと、また外食へ連れ出す・・・といったことが続いて、一緒のベッドで眠るほどに関係が深まるまで、そんなに時間はかからなかった。

そして、そうなるとすぐ、半ば強引に一緒に暮らしだした。
アルバイトなんて、しなくても済むように。

翔大のためなら何でもしてやりたいと思う。どんな犠牲でもいとわない。
なのに・・・本人がそれを受け入れない。

一緒に暮らし始めても最初のころは自分の分の部屋代や光熱水費まで払おうとしていたし、今だって、学校で必要なものがあるなら言えばいいのに、気がつくと日雇いのバイトをして自分で支払っていたりする。

もっと甘えていいのに・・・。
それももちろんだけれど、翔大の方からのアプローチが少なすぎてこっちが不安になることもしばしば。

『仕事の話には口をださないって決めてるから』
そういってキッチンへ消えていってしまうのはさすがに少し寂しさを感じる。
仕事に口を出されるのも行き過ぎると困ることは困るのだけれど。
なんだかあまりにも無関心な気がしてしまうのは仕方がない。

もう一緒に暮らし始めて半年近くたつのに。