アイシテルのカタチ
16
「ところで、申し訳ないのですが、宮妹さん。少しだけこの間の取引についての書類を確認していただいてもいいでしょうか?」
城崎がそう言い出し、京介もそれに応じる。
「じゃあ、僕は失礼します」
城崎にそう言って、部屋に戻った。
仕事の話なんて聞いてもよくわからないから。
「それで、翔大に聞かれてまずい話っていうのは何でしょう」
翔大が部屋へ戻った後、リビングで京介が聞いた。
「さすが、お見通しですね」
城崎が苦笑いを浮かべて、また話を始める。
「宮妹さんがいった『徐々に取引額を減らしていく』という決意は今も変わってませんか?」
確かに、城崎が話し出したそれは翔大には聞かせられない話。
「社主にじきじきに謝られてしまった以上、それは無理ですよ」
「そうですか、社主は『そうされても仕方のないことをした』と言ってましたけど」
「社主がそこまで思ってくださってるなら、それで充分でしょう」
それに、鳳堂物産との取引をやめて、困るのは向こうだけでない。
「亜矢子さんの行く末はなんとなく予想がつく気がしますけどね」
今まで自分で稼いだことがなかった分、給与に覚える不満は大きいだろう。
「水商売に染まるか、社主に泣きつくか、どっちが早いでしょうね」
城崎のシビアな予測に京介は何もいえない。
「もし知りたいのなら、亜矢子さんの情報が入ってきたらお知らせしますけれど?」
「いいえ、結構です。お金をかせいで暮らすということがどれほど大変なのかと、世の中自分の思うとおりにいくわけでないということがわかれば、二度と今回みたいなことは起こらないでしょう」
「そうですか。それなら、私の話はこれで終わりです。自宅まで押しかけてしまって申し訳ありませんでした」
「いいえ、こちらこそわざわざ出向いていただいて。しかも翔大にお気遣いいただいてありがとうございます」
「いいえ。そろそろ、お暇させていただきます」
城崎を玄関まで見送って、ドアを閉めた。
「翔大、話終ったよ。城崎さんも帰った」
翔大の部屋のドアをあけて、中に入った。
「うん、じゃあ片付けるね」
ベッドに寝転がって本を読んでいた翔大が立ち上がって部屋を出ようとする。
「待って」
腕をつかんで、引き止めた。
「どしたの?」
腕を掴んだまま、ベッドに並んで座る。
「俺は翔大にそんなことしてほしいんじゃない」
「京介さん?いきなり・・どうしたの」
翔大の肩を抱き寄せて、目元から首筋までキスをし続けた。
「京介さん・・・?」
「翔大は、俺が女性と二人で食事にいっても平気なの?」
今までにいえなかった言葉が次々とあふれ出してくる。
「俺は翔大が女の子と二人で食事に行くなんて絶対嫌だけど、それは俺のわがまま?」
ベッドに押し倒してシャツを脱がす。
「できるなら俺以外の人間に翔大を見せたくないくらいなのに・・・」
鎖骨の周りを舌で愛撫して体じゅうにキスを降らせた。
京介の言葉を受け止めた翔大がゆっくりと体を起こす。
「・・・僕だって一緒だよ」
翔大の手が伸びてきて、首に絡んだ。
「僕だって、できるなら京介さんといつも一緒にいたいって思う。でも京介さんには仕事があるし、京介さんが仕事を大事にしてるのもわかってる」
そして、翔大から京介へ触れるだけのキス。
「だからね、自分の好きな人が大事にしてることを、僕の大事にしてあげたいと思ってる」
いつもは『邪魔になりたくない』っていってるけど、ちゃんとその意味、わかってくれてた?
そう微笑む翔大に言い知れぬ愛しさを感じて、京介が触れるだけでないキスを返す。
「・・・ん・・っ・・ふ・・」
翔大から漏れる声の一つ一つが愛しくて仕方ない。
「翔大、愛してる」
「・・・僕も」
その後の深いキスから始まって、夕飯を食べるのも忘れて抱きあった。
作品名:アイシテルのカタチ 作家名:律姫 -ritsuki-