アイシテルのカタチ
11
時は少しさかのぼる。
学校の前に取り残された杉野が次に見たものは、これまためったに見ることのない黒の高級車が学校へ向かってくるところだった。
「今日はなんかあるのかよー・・・」
案の定、黒の高級車は学校の前で停まり、その後部座席からは気品あふれる美丈夫が降りてきた。
「杉野君ですか?」
さっきとほとんど同じ状況に驚き、ハイ、と返事をする。
「いつも翔大がお世話になってます。翔大はまだ学校の中ですか?」
杉野が予想もしなかった言葉に驚く。
「あれ、翔大の保護者さんなんですか?」
そういえば、翔大から家の話は聞いたことがない、と思い起こす。
「ええ、正式な保護者というわけではないのですが、そのようなものだと思ってもらえれば」
要領を得ない答えだが、ここで追及してもしょうがないし、あとで本人にきいてみよう、と思い直す。
「翔大なら、さっき誰か迎えに来ましたけど」
「え?」
「白のベンツに乗った美人が車に乗せていきましたよ。いかにもお嬢様って感じで、翔大との面識はほとんどないみたいでしたけど」
それをいうとその人は考え込むような顔をした後、杉野に向き直った。
「すみません、その人がどんな人物だったかもう少し詳しく教えていただけますか?」
「あ、はい。えっと・・・歳は20代で、白いワンピースで、真っ黒な髪に軽くウェーブがかかってて・・・顔立ちは結構きつい感じだったかも。たいしたことわからなくて申し訳ないんですが」
「ありがとうございます。充分です。心当たりがあるのでどうぞ心配はしないでください。失礼します」
それだけ言うと、また車の中へ戻っていった。
「なんだ、ありゃ・・・。翔大にあんな金持ちの保護者がいるなんてきいてないっつーの」
その車を見送ると、翔大のことが気になりながらも帰路に着いた。
車に戻った京介は杉野を前にした顔とは全く正反対の顔をしていた。
思い当たる人物は、一人しかないない。
着信履歴を探して、未登録の番号を探す。
何日か前の夜にかかってきた電話番号にコールバックをする。
そう時を置かずして、鳳堂物産のお嬢様は電話に出た。
『まあ、京介さん?京介さんからお電話をいただけるなんて』
「こんにちは、鳳堂さん。失礼ですが、今どちらに?」
そう問うと相手は明らかに戸惑った様子を見せる。
『ええ・・ええと、今日は自宅におりますわ』
「そうですか、ご自宅でしたらわざわざ出てきていただくのも申し訳ないのでこの電話はなかったことにしてください」
こういえば、相手が食いついてくるだろうことが簡単に想像がつく。
『いいえ!ごめんなさい。実は今、ホテルのラウンジでお茶をしてましたの』
「そうでしたか、どちらの?」
そう聞くとまた、相手が言葉に詰まる。
それに、聞かなくても大体わかっている。
鳳堂物産のホテルの中で、近場であの人が気に入りそうな高級ホテルは一つしかない。
相手が言葉に詰まっている間に、運転手へと向かう先を告げた。
『もしお誘いくださるなら、わたくしが出向きますわ』
さんざん言葉につまった挙句、出たのはその言葉。
「では、センチュリープラザホテルでお食事でもいかがでしょうか?」
予想通り、相手は返す言葉もない。
気長に相手の返事を待つ。
『ごめんなさい、今日はやっぱりご一緒できません。また後日ご連絡しますわ』
突然電話が切れた。
考えはほぼビンゴ。
急ぐように運転手にいいおいて、再び携帯を手にする。
あと5分程度で到着するはず。早く翔大を助け出さないと大変なことになる気がして、気は急いた。
作品名:アイシテルのカタチ 作家名:律姫 -ritsuki-