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あいねの日記1.5日目

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「それはそうなのですが、仲良くさせていただいていた事もあって、落ち込んでしまいまして。もしかして私の方になにか落ち度が合ったのではと」
「そう自分を責めるな。それにいまは周りにいる友達とうまくやれてるんだろう? どれだけ仲がよくても仲違いしないなんて事はないんだぞ。長い人生そういう事もある」
うまく誘導できないな。なにか切り出せるきっかけでもあればいいのだが。
「確かにいまは周りの方とも仲良くしていただいているのですが。高田さんを見かける度に心苦しく思えてつらいのです」
「それなら、あと少しの辛抱だ。高田は転校するそうだからな。そうすれば見る事はなくなるだろう?」
 え、転校? 美弥子が転校すると言うのだろうか?そんな話は誰からも一言も聞かされていない。それは転校するのであれば、嫌がらせと言う行為については、黙認し見逃すと言う措置を取ったと言うのだろうか?
「先生、それはあまりに行き過ぎた措置ではないでしょうか? 確かに、私も気に病んでいました。ですが、そのような措置を取られては、私が罪悪感に囚われてしまいます」
 頭が回らない……。いまは次の言葉を紡ぐ事に集中しなければ。
「いや、先生も知らなかったんだが、転校自体は元から決まっていた事みたいだ。ただな、いじめていた事を隠したままで学校を去る事は出来ないって言ってきたんだ」
「それって、高田さんが他の共謀者たちに利用されたって事はないんですか? 高田さんの裏に黒幕がいるとか? その、これは信じたくないからと言うわけではないのですが、客観的に見てもそこまで自己主張の強い方には見えないのです」
「んー、そう言われてもなあ。正直に言うとだな、藤倉の持ち物に手をかけている姿を見ている先生がいるんだよ。それで明るみに出たんだが、その時に自分が表立って動いていたと言い出してな。事が大きくならないようであれば、このままなかった事にしようと言う話で落ち着いたんだ」
「そのような事があったのですね」
「そのなんだ……、藤倉がこの事を荒立てると言うならこの限りではなくなるんだが。出来れば穏便に済ませたいんだよ。済んでしまった事でもあるし、高田本人もいなくなってしまうというのではなおさらでな。
 おまえ、前々からいじめられてたんだってな? 以前にも部の面々に軽く問いただした事はあったんだが、とくにこれと言って目立った事もなかったからそのままになっていたんだ。先生も気付けなくて悪かった、すまない」
「気にしないでください、私にも非はあると思いますから。それに、いまさら事を荒立てるつもりもありませんから安心してください。済んでしまった事に根を持つほど器は小さくないつもりです」
「そうか、気を遣わせたようですまないな。部活動辞めたのもやっぱりそれが原因か? あの時は勉強に力を入れたいと言っていたが、いまさらかもしれないけど続けるつもりがあるならいつでも戻ってこい」
「お気遣いどうもありがとうございます。ですが、私としてもいまは他に集中したい事がありますから。そのお話は謹んでお断りいたします。いろいろお話をしていただいてありがとうございます。それでは失礼します」
「それじゃあまたな。変な気起こすんじゃないぞ」
 あっさりと謎は解けたと言えるのだろうか? 余計に分からなくなった事もある。
 しかし、美弥子が転校するとは……。転校するとしても私のいじめとの因果関係がまったく掴めない。素直に受け止めるなら、美弥子なりの置き土産のつもりなのだろうか? それにしても突飛な事を思いつくものだ。私でもそこまでの事はした事がないと言うのに。

 もう一度整理してみよう。美弥子には転校する事情があった。私と美弥子との付き合いは短いものではあったが、私がいじめられている事を気に病み、美弥子なりに私の身を案じていたのだろう。本当にお節介な事をしてくれたものだ。
 先生は気付いていたが、私が気にしてない事をいい事に放置していたくらいだ。
『そう言う道を選んだのは君だろう? なら先生がとやかく口にする事じゃあないよ。ましてや手を出すなんてあるまじき行為だね』そんな言葉を口にしそうだ。
 美弥子は自分が主犯だと口にする事で、他の共謀者たちの罪をなかった事にしたのだろう。
 だいたいいじめなんてものは継続するうちに、やっている側は手間を感じるだけで達成感など得ないものなのだ。惰性で続けて罪を問われるくらいなら身を引いたほうが賢いと踏んだのだ。
 美弥子と言うスケープゴートがいるのだから、好都合と言うものだろう。そうなるとあの時の泣き顔は、私と別れる事への涙だったのだろうか? もう話す事は出来なくなるけど、みんなと仲良く楽しく過ごしてほしい。そんな思いだったのだろう。

 山口はともかく、先生は真相に辿りついている。美弥子本人に問い詰めたに違いない。そう言う人だ。
 きっと、その時美弥子が妙に念を押したのだろう。私には分からないようにしてくださいとかなんとか。こうなると探偵気取りを続ける必要性はない。いじめ云々など、始めから眼中にないのだから。
 謎が解けた私が満足しているかと言うと、ここまでやられたからにはやり返さなければ虫の居所が収まらない。そんな心境だった……。
 しかも勝ち逃げとなれば許せるわけがないのだ。

 残念ながら私は、美弥子の住所も電話番号も知らない。クラスをかろうじて知っているだけなのだ。この時間から取れる手段としては、先生を頼る事なのだがあの調子では難しいだろう。
 美弥子の担任から聞きだすと言う案もあるにはあるが、よほどうまくやらなければ難しい。相手は私と美弥子の関係を知っているのだ。会わせたくないと思うのが普通だろう。
 素直に明日を待つと言う選択肢もあるにはあるが、果たして時間の猶予はまだあるのだろうか? いついなくなってもおかしくないのだ。そうなれば連絡を取る方法自体がなくなってしまう。
 こうやって手を拱いている場合ではない。こうなってくると交友関係の薄さを恨めしく思う。

 期待の持てそうな音楽室に足を向けてみる。が、開きもしないし鍵が閉まっているようだ。先ほど残っていた子たちも帰ってしまったのだろう。時間だけが刻々と過ぎていく。
 きっとこれが昨日であっても同じなのだろう。だが明日も、同じように美弥子がいる保障はないのだ。いまの私は明日の私を知らない。
 私をここまで追い詰めるとはたいしたものだ。本当に侮っていた、気の弱い羊を装っていたが、蓋を開ければ狼でしたってところか。私相手に心理戦を挑んで、こうもあっさりと勝負が決まるとは。泣き顔ではなく、あの私など知らないと言わんばかりの表情を思い出す。
 しかし、本当に困った。美弥子の家は、少なくとも私の近所ではない。小学校を共にしていないのだから、これは確かだ。
 私の通う中学校は、三校の小学校のいずれかの出身で成り立つ。ごくごく例外はあるだろうが、私の小学校にいなかった事は断言できるから残り二校のはずだ。美弥子のクラスメイトないし、同じ出身校の生徒を探す必要がある。
作品名:あいねの日記1.5日目 作家名:Azurite