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あいねの日記1.5日目

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「仲良くさせてもらっていた時は気づかなかったのよね。高田美弥子も、私への嫌がらせに一枚噛んでいたと耳にしてはいたのよ。ま、音楽の川口先生を独占されて気に食わなかったんでしょう。それはともかく、あなたたちと繋がりがあったのか確認しておきたかったのよね」
 美弥子には申し訳ないが、話に合わせる事にした。ごめん、美弥子……。
「先生もそう言ってたけど。私、その子の事なんて知らないよ。ただ、引き返すならいまだって、みんなでそう決めて。それで謝ろうって……。もういいでしょ? 部内の人たちとの事は認めるし謝るから。でも、そっちは知らないし関係ないんだから。なんでもかんでも私がやったなんて思わないで?」
 少し追い詰めすぎたのだろうか。これでは本当に知りたい情報が霞んでしまう。
「その調子だともう用もなさそうね」
「そんな……。私、藤倉さんの仲間になるから。これからも言う事聞くから……。許してください……」
 絶対誤解している。話す事もなくなったとなれば、いよいよ制裁が加えられると思い込んでいるのであろう。こうなってしまうと私が不利だ。ま、聞ける事は聞き出せたのだよしとしよう。
「良く出来ましたっ、二重丸でしたよっ! 協力ありがとねぇ。いやあ、部のよしみとは言えいろいろ答えてくれて藍音助かっちゃった。ほんとありがとうねぇ」
 目の前で茫然自失としている。
「え……」
「どしたの?」
「……えっと、いままでの事は?」
「やあねぇ、そんなの冗談に決まってるでしょ。ほんとにしてたら犯罪じゃない」
「なっ、あれが冗談だったって言うのっ!?」
「あれれ……? もしかして本気でしてほしかったのかなぁ? どうしてもって要望されちゃうと、私も付き合わないわけにはいけなくなっちゃうんだけど。そのへんどう思うかな?」
一応釘は刺しておく。
「あ、そ、その…、冗談がいいです」
「うんうん、いい子にしてると良い事あるよね。それじゃあ、これはご褒美です」
 そうやって、ポケットに忍ばせた手の平を広げて飴玉を見せ握らせる。あれは演技だったとアピールしつつ陽気に手を振ってみせる。それでもアピールの意味も薄いようだった。その場でうなだれたまま反応がない。トラウマにならない事を祈る。
 こちらとしてもそれ相応の迫害を受けていたのだ、因果応報とも言えるだろう。もっと言えば、相手は選ぶべきだと良い教訓となったはずだ。
 まあ、だいぶ詰められた。そうなると残りは音楽室関連か、望み薄い気はするが他に思いつかないのならやるしかないだろう。しかし、さっきはうまく事が運んだからいいようなものの、この手段は外すと痛い。面倒だがよほどの事がない限り、違った手段を取るべきだろう。


 さっそく音楽室に向かう。
「みなさん、こんにちは〜」
「こんにちは、藤倉さん」
「こんにちは、今日は遅かったんですね」
「このまま来ないと思ってましたよ」
「そう言えば川口先生は着てないのかしら?」
「先生でしたら職員室の方に用があって外してますよ」
「先生に用事でもあったの?」
「うんん、そう言う訳じゃないの」
 とりあえず、この辺りから始めてみるとするかな。確か、美弥子との一件がある前から音楽室に通っていた顔ぶれも揃っているようだし、それなりに情報は持っているかもしれない。
「ねえねえ、高田さんの事聞いてます?」
不自然に捉えられぬよう、さりげなく話題を振る。事の直後でもないのだから問題ないだろう。
「そう言えばこちらで見なくなってからだいぶ経ちますね」
「そうそう、それには実は裏で先生たちが一枚噛んでるって噂があるのよ」
「先生たちですか、高田さんって温和で優しい方だと思っていましたけど」
「どうしてそうなるんですか?」
「……でも、いきなりまったく来なくなってしまうって不思議ですよね」
「藤倉さんはなにか耳にしているの?」
「放課後は帰ってしまっていて忙しいから来れないのは分かるけど、以前はお昼休みもいらしてたのに」
「それが突然途絶えちゃうのは、やっぱり裏がありそうですよねぇ」
「皆もそう思うでしょう?」
 簡単である。適当に関心の深い答えやすい話題を振れば後は待つだけでいいのだから。あとは適当に相槌を打つだけで済む。
「お昼休みは教室や図書室にいらっしゃるみたいですけど。お忙しいようには見受けられないですね」
「そうなると川口先生となにかあったんじゃないかって、邪推したくもなるってものですね」
「そうなのよ、それでなにか耳にしているんじゃないかなって思ったから」
「おかしいとは思いますけど、これと言ってとくには思いつかないですね」
「先生は、師事する方の方針とおっしゃってましたけど」
「師事と言うと放課後の習い事かしら?」
「そう思うんですよね、きっとなんで美弥子は僕の言う事が聞けないんだ? 僕の言うとおりにしていれば、僕と美弥子の将来は約束されているんだよとかなんとか言われているんですわ」
「んまぁ、高田さんって大胆な方ですわね」
「きっと相手は美形の音大生ね」
 この人たちは、私とは違う世界に住んでいるのだろう。とても付いていけない、そして深入りしてはならないと私の脳が警鐘を告げる。それでも登場人物が美弥子と言うのは気に入らない。どこぞの芸能人の話しでしてほしいものだ。
「えっと、言っていいのか迷ったんですけど。先輩振られたんじゃないかと……」
「高田さんが振られた?」
「はい、もうだいぶ前になるのですが。夕方に泣きながら走り去る高田さんを見かけたと言う噂がちらほらあったので」
「あの噂って、本当だったんだ。私もそれなら聞いたよ。高田さんに限ってありえないって思ってたけど」
「振られた?」
「私が聞いたのは、泣きながら走り去ったと言うだけなんですけどね」
「いじめにあっていたなんて理由で、泣かされたとは考えにくいものね」
「確かにそれよりも振られたって言われた方が納得はしやすいけど」
「藤倉先輩はなにも聞かされていないのですか? ここのところずいぶん親しくお付き合いされているようでしたけど」
 痛いところをついてくる。
「そうなんだけどみんなが言うその日だと思うけれど、その日を境に私も避けられているみたいなの。だからなんだけど、みんなはどうなのかなぁって気になっちゃて」
 待ちの姿勢は崩さず、当たり障りの無い周知の事実のみを伝える。
「そうでしたか、私とすれ違ってもどこかよそよそしい雰囲気でした」
「そう言えば、噂の日からこちらに来ていないもんね。それまでは欠かさず来ている様に見えたのに」
 やはり正攻法で得られる情報などこの程度なのだろうか。
「どうしてなのかわからないけど泣いていた事と、その関連がこの音楽室にあるって事なのかしらね?」
「それ以上は憶測になってしまいそうですよ、陰口のようになってしまいそうで先輩にも悪いですし……」

 私もそう思う、ここまでで分かった事を踏まえてまとめてみよう。
作品名:あいねの日記1.5日目 作家名:Azurite