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レジで前に並んでる奴のTシャツの背中のロゴでした

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 ちなみに、ここでの小説用ハッシュタグは『#twnovel』だ。Twitter上のそれと全く同一だった。もちろん、ここではハッシュタグをフッター扱いにできるため、あちらではハッシュタグに必要な文字数分を省いた一三一文字が限界だったが、こちらでは一四〇字まるごと小説に充てることができる。九文字の差は大きい。

 一話完結の一四〇字小説を日に五本程度、ジャノミチに流すようになってから三日ほどで、三人のTwisster小説家と相互カラミの関係になった。

 その中の一人、ムーンライト(@mooooonlight)とは少しだけ親しくなった。

 三日ほど前、オレはこんなTwisster小説をジャノミチ上に流した。

 『危篤の男が妻に頼む。君が好きなアロマっていうのをやってみたい。妻は看病疲れも忘れて喜び、道具を揃えて毎日オイルを補充した。だが男はそれを焚かずに毎晩飲み続けた。味覚などとっくにないほど弱っていたから。翌年、男は死んだ。火葬場にはアロマの香りがふわふわ漂い、妻や参列者を癒しました。(#twnovel)』

 その数分後、オレにリプライが届いた。Twissterを始めてから、初めてのリプライだった。

 『@jailedmonk それとよく似た一四〇字小説をTwitterで見た事ありますが』

 それが、ムーンライト(@mooooonlight)だった。

 実は、彼のことを知っていた。Twitterではお互い未フォローだったが、オレが『RATM』をタイムラインに流した後にハッシュタグ上へ反映されているか確認する際、いつも近くに彼の作品があった。彼の作品は一般大衆に受けが良いらしく、次々と公式RTされていく。そして、ドロップしたばかりのオレの『RATM』は数分で画面の下のほうへと消えて行ってしまう。そんなことが何度も続き、彼の『mooooonlight』という名前と、そのジェームス・ブラウンの顔写真を加工したアイコンはよく憶えていたのだ。彼のカラミ数は三〇〇程度だったが、カラマレ数は一〇〇〇を超えていた。

 『@jailedmonk あ、、、盗作疑惑をかけたみたいで失礼しました。ネタがカブることくらいよくあることですもんね。その元ネタの人は今はプロの作家になりましたけど、jailedmonkさんも同じような才能をお持ちなだけかもしれませんよね』

 ━━突然失礼なことを言われたとはいえ、礼節を欠いた人物ではないだろうと判断した。返信する言葉も思いつかないのでその代わりに、とオレは少し迷ってから「カラミ」ボタンを押した。
 ほどなくして、ムーンライトからもカラミが返ってきた。すると、さらにあと二人から立て続けにカラミが発生した。
 彼らも一四〇字小説書きであり、ジャノミチを確認したところ、ムーンライトと親しい間柄らしい。三者間でよく『一四〇字で書く小説について』の議論をしているようだ。
 特に問題ないだろうと判断し、彼らに対してもすぐにカラミを返した。



 こうして、jailedmonkとして初めて“同志”を得た。
 『カラミ数:14/カラマレ数:22』



 開始一週間にして、オレのTwissterライフもだいぶ安定してきた。
 気になっていることは一つだけ。
 それはもちろん、モモ(@momo_chang_1221)のことだ。

 この一週間、彼女は一度もTwissterへログインしていないようだ。
 Twitterの頃はこんなことはなかった。毎晩欠かさずオレと同じ深夜帯にタイムラインに現れていた。どこかに旅行にでも行っているのだろうか。仕事が急に残業続きにでもなったのだろうか。あるいは、学校の課題が大変なのだろうか。あるいは、家族間のトラブルでもあったのだろうか。

 ━━そういえば、オレはモモのことをほとんど何も知らないな。彼女が学生なのか社会人なのか、もっといえば、男か女かも定かではないのだが。

 コンコンコン、とドアを三回ノックする音がした。



 すぐに違和感を覚えた。いつもの音が違う。



 「オミトくん、開けてくれる? おばちゃんだけど。ちょっと大事な話があるの」







 一階の和室にて、オレは座布団にあぐらをかいて座った。
 この部屋に入ったのは何年ぶりだろう。いつも二階の部屋からコンビニに行くときは、階段を下りてまっすぐ玄関に向かう。たまの風呂上がりに、深夜のキッチンで麦茶を飲むことはあるが、障子で仕切られたこの和室は母親の寝室でもあり、あえて足を踏み入れる機会など無かった。

 木彫りの上等な座卓を挟んで向かい側に、母親と、その姉に当たるおばちゃんが並んで正座している。テーブルの上には客用のグラス二つとオレ専用のグラスの三つ、それぞれの目の前に置かれていて、母親はそれぞれに麦茶が注いでいく。

 このように母親と対面するなど、何年ぶりだろう。
 知らない間に白髪が目立つようになり、少し痩せたように見えた。ずいぶん肌がひからびて見えるのは、余計な感傷によるフィルターがかかっているのかもしれない。

 部屋の隅には、古びたデスクトップPCが置いてあった。
 このPCのことは憶えている。まだオレが前職に就いていた頃、パソコンを買いたいという母親のために、オレが選んでやったものだ。知識の無い母親を騙して「最低三十万はかかる」と、当時としては最高スペックのPCを買ってやったのだ。そのPCの素晴らしい性能の恩恵に気付くこともできないまま、母はうんうん唸りながら悪戦苦闘していて、たびたびオレが相談に乗ってやったのも、もう何年も前の話だ。

 母親がグラスに注ぐ麦茶を、黙ったまま眼で追っているおばちゃん。このおばちゃんは苦手だ。品の無い服装に、品の無い化粧。その品の無いダミ声で発する意見は全て思うままにまかり通ると思い込んでいる。

 「さっきはごめんなさいね。でも、本当に大事な話だったから」

 オレが最初のノックをいったん無視した途端、急に語調を荒げたことを言っているのだろう。
“ちょっと出てきなさい 大事な話があるって言ってるでしょ おばちゃんがわざわざ東京まで出て来てるんだからそのくらい分かるでしょ 早く出てきて”
 コンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンコンと扉を叩き続けながら。

 オレは無言のまま、YESでもNOでもないといった風に小さく頷いたが、おばちゃんはオレのレスポンスなど気にせず喋り始めた。

 「実はね、おばちゃんの工場で一人、どうしようもない理由で辞めてしまった人がいるの。でもこの時期だと、いくら就職氷河期なんて言われてるこのご時世でも、なかなか新しい人が見つからないのよ。それで、オミトくんもちょうど職探し中だった筈だし、どうかな、と思って声をかけさせてもらったのよ」

 母親は黙ったまま眼だけを動かして、オレとおばちゃんを交互に見ていた。オレもなんと返事したらいいか分からず黙っていた。