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レジで前に並んでる奴のTシャツの背中のロゴでした

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 『今月残りあと五日間 2500円で過ごさなきゃいけない件(笑) お昼は抜くことになると思う』

 ぼんやりと眺めていたジャノミチに、momo_chang_1221のクダマキが表示された。

 “@jailedmonk 独りで考えていても仕方ないでしょう 直接わたしに訊いてきたらどうなの?”

 オレは少しも慌てることなく、そんなことをイメージして自分自身を奮い立たせながら、相手へのリプライをキーボードで打ち込む。

 現実と向き合うのだ。

 『@momo_chang_1221 こちらこそ宜しくお願い致します。因みに、『RATM』は現在連載休止中です。以前、御質問賜った小生のネエムの由来の件、未だ興味が御有りでしたら開陳させていただければと思う次第で在ります。』

 ……これでいい。後は反応を待つだけだ。

 待てど暮らせど一向に返事が無い場合。
 それは『Twisster上の不具合』だったか、『ハッキングされた』だけだったのだ。
 momo_chang_1221は間違いなく母親だったという結論に戻るだけだ。
 オレは母の悲鳴を無視してのうのうと生きてきた、という現実を突きつけられるだけだ。オレはそれを一生背負って生きていくつもりだ。

 何らかの返事があった場合、それが当たり障りの無い汎用的な内容だった場合。
 これは『ハッキングされた』の一択だろう。
 偶然とはいえこちらもそのアカウントをハッキング可能な状態ゆえ、相手を脅かすこともできるかもしれない。
 もちろん、そんなことをするつもりは全く無いが。
 momo_chang_1221は間違いなく母親だったという結論は何も変わらないからだ。

 あるいは━━

 『@jailedmonk わわっ ごめんなさい! ツイッターで仲良くさせてもらってたjailedmonkさんですよね 一瞬記憶が飛んでました 名前の由来ぜひ聞きたいです でも現在フォロワー整理中なので フォローはしばらくお待ちくださいませ』

 彼女からのリプライは、オレの送信後わずか三分で着た。

 その内容は間違いなく、オレのよく知るモモだった。オレの読者第一号のモモだった。

 『モモ(@momo_chang_1221)は元々オレの母親ではなく、赤の他人だった』

 なんということだろう。
 オレはまた、この場所から這い上がろうと思った。

 『@momo_chang_1221 今日は元気そうだなと思いきや、今度はお金が無い模様(笑)。1日500円使えるなら、カップラーメンくらいなら食べられるのでは?』

 不意に、ジェームス・ブラウンの顔写真を加工したアイコンがジャノミチに現れた。
 ムーンライトのクダマキ、モモへのリプライだった。
 確認してみたら、二人は相互カラミの関係だった。
 少し驚いたが、彼女は元々一四〇字小説家を好むタイプなのだから、よく考えればごく自然のことだ。
 オレは書きかけの彼女へのリプライをそのままにして、二人のやり取りを無言で観察することにした。
 学生の頃、好きな女の子と二人で会話していたところに、クラスの人気者に割り込まれたことがあった。今の状況はそれに少し似ているが、あまり考えないようにした。

 書きかけの彼女へのリプライは、オレのjailedmonkという名前の由来についてだ。

 『@momo_chang_1221 一言で申せば「囚われの僧侶」とでも云えるでしょう・・・我々は皆自由で在って自由で無い。誰もが囚われの身なのです。「囚われの戦士」や「囚われの職人」もいるでせう。貴女はさしづめ「囚われの姫」かもしれません。そして、小生は僧侶・・・それだけの話です。』



 『@mooooonlight そうですね なんとか乗り切ってみます ありがとうございます!』

 モモはムーンライトといくつかの会話のやり取りをした後、こんな独り言のようなクダマキをジャノミチに残した。

 『Dします』

 それはおそらく、ダイレクトメッセージのことを指しているのだと思う。タイムラインやジャノミチのような“公衆の面前”ではない、プライベート空間での二人によるやり取りのことだ。
 誰宛てに送るかは明示していない、だが、少なくともオレ宛てでないことは確かだ。Twissterでのダイレクトメッセージは相互カラミの関係でなければ送受信できない仕様なのだ。

 ……誰宛てだろう

 ……どんなやり取りをするのだろう

 素直にそんなことを思った。
 普段のオレならそんな下卑た興味など、湧いた直後に全力で握りつぶす。そんなことに興味を持つ自分自身の小ささや、そんなことに興味を持たせる相手の大きさを実感させられることに耐えられないからだ。だから、普段のオレならそんな兆候を自覚した時点で全力で“無かったこと”にしようと努める。

 だが、今回はいつもとは違っていた。

 それはきっと、オレが今、『それを確認しようと思えばすぐに確認できる状態にあるから』だろう。

 オレはモモのアカウントに本人としてログインすることができる。
 オレ自身はダイレクトメッセージを使ったことはないが、その自分が行った秘密のやり取りを自分のホーム画面から確認できることくらいは知っている。

 それから、二時間ほど待った。

 モモの『おやすみなさい』のクダマキを確認したのが一時間前。
 それから念のため、一時間ほど時間を置いた。その間、彼女がジャノミチ上に現れていないことも確認していた。

 時計はすでに午前三時を回っていた。

 オレは一旦Twissterからログアウトする。

 そして、すぐさまログイン画面にて、IDとパスワードを入力する。

 『momo_chang_1221』

 『sweetpeach』

 オレはその間、一切の感情を排除し、ロボットのように事に当たった。

 モモのホーム画面が開き、オレはすぐに『ダイレクトメッセージ』と書かれたリンクをクリックした。

 そこには、モモとムーンライトの会話のログが残されていた。

 ……特に驚きもしなかった。
 というか、あのタイミングでの『Dします』から相手を予測するならば、ムーンライト以外考えられない。

 そして、オレはそのやり取りを眺めた。

 『@mooooonlight ムーンライトさん 助けてください』

 『@momo_chang_1221 どうしました? まさかお金を貸せと?』

 『@mooooonlight 違います(笑) ちょっとストーカーっぽい人に狙われてて・・・』

 『@momo_chang_1221 あららら……そういう相手にブロックは通用しないのは、Twitterの時代から結局、今もここでも変わってないことですからね』

 『@mooooonlight そうなんです・・・ちょっとしばらく気付かなかったんですけど ずーっと前からわたしにカラんでたみたいで 今日たまたま気付いたんですけど』

 『@momo_chang_1221 えっ? まさか、jailedmonkさんのこと?』