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しっぽ物語 3.ラプンツェル

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 胸がむかつく。額を眼の前の壁に打ち付けたい衝動に駆られるが、奥歯を強く噛み締めることでかろうじて耐えた。少しずつ熱のこもり出したバスタブ内で、胃酸によるものではない渇きも酷くなる。奔流で視界にすだれの如く張り付いた前髪が視界を遮り、暗く燃える怒りをどんどん膨らませていく。実際、眼の前が真っ赤になるように感じたほど、弾ける前の癇癪は限界まで膨らんでいる。両手を壁につき、Lは俯いた。もう少しシャワーを強く出せば、血が出るほど打ち付けても気付かれないかもしれない。
「育て方を間違えたのか……それとも、なんだ、遺伝子のせいか」
 渦を巻き続ける憤激の中でも、いや、その中心に飲み込まれているからこそ、妻の顔は簡単に思い出すことが出来る。怪しげなリフレクソロジーの専門家に足を撫でさせる時の恍惚としたふやけ顔と、すぐに癇癪を起こしてコーヒーカップを割るヒステリーに支配されたこめかみの痙攣。息子達の表情と交換しても、何一つ違和感はない。
「俺の家系にあんなおかしな奴、一人もいないぞ」
 Gはもう、何も言わなかった。また走るだんまりも、今度は気分を持ち上げてはくれない。落胆し、いい加減水を止めようと手を伸ばすが、ふと首を持ち上げた先の光景に息を飲む。


穴から飛び出す無数の水の粒一つ一つに、昼過ぎの光は平等の力を与える。薄い亜麻色の線となって続く水の軌跡を取り巻くよう、同じ色のきらきら輝く輪と、差し込む筋、それに絡むような波状の陽光。天窓からの恩恵が、バスルームを取り巻いている。いや、このシャワールームに窓など無かったはずだった。それなのに。この美しさはどうだ。気付けばLは、バスタブの中に腰を下ろしていた。
「それで、その女は今もずっと眠り続けてるそうだ。頭の傷の結果は良好らしくて、予定よりも早く包帯も取れそうだとか。だから女が目覚めないうちに、手を握ってる写真でも撮ってマスコミに流しておけばいいんだ」
「暴行」
 自らの口から零れた言葉が聞き取れないことを不思議に思いながら、Lはもう一度暴行、と唇に乗せた。
「そりゃ哀れな話だな」
 後頭部を浴槽の縁に乗せたまま、Lは少しずつぎらつきを増す光から目を離せないでいた。しっかりと形を保っていた輪郭はぶれ始め、天井全体が輝いているようにすら思えた。「見舞金でも送ってやれ」
「聞いてるのか」
 ビニールが揺れ、頬を掠める。