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しっぽ物語 3.ラプンツェル

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「渡されたパンフレットがずぶ濡れだ」
「そこにドライヤーあるだろう」
 カーテンの隙間から指を突き出す。
「Bからか? 今度は何だ、看護師の数を増やしたいとか?」
「いや、患者との交流会に来てくれとさ」
「いつだ」
 分厚い風の音にかき消され、聞こえなかった。
「なんだって」
「今週の土曜日」
「そんな急に」
 突発的な怒りに、壁へ爪を立てる。
「大体なんで、直接俺に連絡してこないんだ。いくらあいつが神の子に成り果てたからって、タネを仕込んでやったのはこの俺だぞ」
 穴だらけのシャワーヘッドに重なったのは、清潔な顔をひそめ、悲しげに声を抑える息子の姿。
『父さん、いけないよ』。
それから母親そっくりの仕草で目を伏せ、胸の前で手を組み合わせる。まるで今から火あぶりに掛けられるかのように背を丸め、指先が白くなるほど力を込める。
『賭け事なんて、そんなの良くない仕事だ』
「嫌ってるわけじゃないさ」
 Gは静かに言った。
「本心では。だがあいつは、真面目だから」
「今更お上品な顔で清廉潔白だなんて言うなよ」
 鼻を鳴らし、吐き捨てる。
「うちから散々病院に寄付してやったから、院長さまさまじゃないか」
「だからこそ、こういう行事には参加しないと」
 ドライヤーのスイッチが切られるのと入れ替わりに、神聖な神の領域から発行されているとは到底思えない、毒々しい色刷りのチラシが差し込まれる。湿っているところに熱風を当てられ、惨めな皺を寄せるそれを、一応は眼を細めて読もうとした。だが余りにも多すぎる聖書の引用文と、飛び交う天使達の顔のリアルさに、目が霞む。気力が、石鹸の泡と共に背中を滑り落ちる。
「息子のためじゃない、本心から慈善活動に興味があるって、ふりだけでもしないと。すぐ周りに叩かれるぞ」
「Fに行かせろ」
 不愉快な紙を押しやり喚いた。
「遊ばせておくな。少しは仕事を覚えるよう、お前からも叱っとけ」
「Fを?」
 Gの口調に含まれたネガティブな感情は、かろうじてカーテンに阻まれ、あからさまにはこちら側へ届かなかった。
「12歳の頃、ホームレスの服に火をつけるしか遊びを知らなかった子供に、慈善の
意味が理解できると思うのか」
「ああ、くそっ。何でうちのガキ共は揃いも揃って」