小さな鍵と記憶の言葉
「それくらいで許してあげるんだ、リラ」
懸命に首を振るケイと、どうしても本質に迫れない私。両者の行き違いを宥める様に、白兎の声が割って入る。いつの間にか彼もまた私の傍に佇んでいる。
「分かっているんだろう。彼は悪くない」
降ってくる穏やかな声を無言で受け入れる。
分かっている。ケイは悪いんじゃない。悪いのは、きっと私。
けれど白兎はそれさえも否定した。今度は鋭い目であらぬ方向を見渡した。やがて視線が定まり、まるで最初に会った頃の彼のように冷たい声を発した。
「悪いのは彼ではない。そうだろう、セレスタイン。――いや」
偶然にも誰も通りかからない、階段の下のほうへ向かって呼びかける。
静寂。ステンドグラスから零れる光。
廊下に飾られた彫刻の陰から現れたのは人の影。
「『ガーネット』」
大きな剣を下げた、この城を守る騎士は、白兎の言葉に嫌悪するかのように眉を顰めた。
作品名:小さな鍵と記憶の言葉 作家名:篠宮あさと