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小さな鍵と記憶の言葉

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 昨日の料理教室のタルトは、私にしては良く出来たような気がした。ちょっと生地がパサパサしていたので実際はもう少し要練習といったところかな。
 次に上手くいったら、来週はパイにしよう。少し気が早いけど、もうタツキにはお願いしてある。パイならリンゴかレモンか、何がいいかな。それに、次はケイも一緒に出来るといい。そんな風に暢気に考えながら、私はフィンを追いかけるようにして廊下を歩いた。
 と、向こうから大らかな雰囲気のスーツ姿の男性が歩いてくる。普段は女王の間で仕事をしている所ばかり見ているので、こうして廊下の片隅で会うのは何だか新鮮だった。

「リラにフィンじゃないか」
 軽く手をあげて、ローレンスが歩く速度を緩めた。フィンが小さく会釈を返す横でどこへ行くのかと尋ねてみると、やはり仕事で用事がある途中らしい。
「ガーネットのところへ行こうと思っているんだが、どこに行ってしまったのやら」
「そういえば昨日、街へ出る前に見かけました」
 昨日といえば私とフィンが買い物に行った日だ。私達は午前中は別行動だったけれど、午後から予定を合わせて門を出たんだっけ。
 フィンは昨日のことを思い起こしてから、それから少し気遣わしげに言い加えた。
「彼女はどうですか」
「どうだろう、安定しているように見えるよ」
 王の瞳は、ゆるやかに労わりの感情を持っている。私にその真意は分からないけれど、少しだけ何かを懐かしんでいるように、安堵しているように見える。けれどどうしてだろう。彼の言い方にはほんの少しだけ、何か気がかりがあるようにも感じられる。
 『ところで、ガーネット、って』――口を開きかけたところで、今度は真後ろから声が聞こえた。

「リラ!」

 そんなに離れていない距離からの大声。声の主には珍しいアプローチの仕方だったのもあって、私はびくりと肩を縮ませ、慌てて振り返って、更に驚く。
 やっぱり、私を呼んだのは彼の声で間違いない。だけど、どうしてあんなに疲れきっているんだろう。その答えは彼の長い髪の後ろに隠れていた。
「ルーシャ。それに……ジョシュア?」