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小さな鍵と記憶の言葉

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「君は僕の助言を受けて、この内側に存在すべきものを選択した。自分の持つ知識から、知り得る常識から。有り得る可能性から。けれど、それに責任を持つことは困難だ。結局真実はこの指先を開いて見なければ分からない。手の中には硝子球が入っているかもしれないし、振り子時計かもしれない。或いは、ただの暗闇があるだけかも」

 天井からの光が、一層強くクリスを照らす。ふいに午睡が押し寄せてくる。先刻から小さく小さく忍び寄ってきた、ふわふわとした甘いもの。ぐらぐらと不安定で、怖くも優しいもの。
「この中の世界は、君にとってはまだ決定していない。だから君はそれが現実になる瞬間まで選択することが出来る」
「私には難しいよ。貴方の話も、その方法も」
「そうだね。でも、それなら残された方法を使えばいい」
 私は顔を上げる。その視線に絡め取られるように。足元が揺れた気がした。
「諦めてしまえばいい。選ぶことの一方で、選ばないという選択もまた残っている」
 そうして猫は、静かに指を解いていく。その眼が妖艶に光を散らす。今日初めて真っ直ぐに彼の視線を受け止めた。ニヤニヤ笑いを押し込めた微笑が私を午睡へと誘っている。

「どんな答えだって、君の求めるほうが現実だよ、リラ」

 真っ直ぐに差し伸ばされた白い手。眼光と掻き消す微笑。
 上向きに開いた掌の中には、金貨ほどの小さな本が収まっていた。