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小さな鍵と記憶の言葉

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 午後の時間はとても穏やかに過ぎて行った。
 定刻通りに出てくるタツキの昼食の後、私は足早に廊下を進んだ。二階の渡り廊下を抜けて東の塔へ。賓客搭で薔薇達がせっせとベッドメイクをしている様子を尻目に、ぐるぐる階段を昇った。

「大丈夫ですか?」

 急に声をかけられたものだから、声をあげそこねてしまった。言葉にならない言葉、声にならない声で、まるで弾かれたように声の方角を向いた。マーマレード色の髪の友人が心配そうに私の顔を見る。
 そうだ、私はトカゲを引き連れていたのだ。あまりに思考に沈んでいたものだから、せっかく付き添ってくれている彼の存在が抜け落ちていた。

「すみません。なんだかとても疲れているようだから」
 謝りたい衝動に駆られながら、首を傾げる。
 疲れている?私は疲れているだろうか。確かに心は重い。けれどそれはセレスにああ言われたからで決して疲労のせいなんかじゃない。そこまで思考を連鎖させて、またずしりと頭が重くなる。ああ、これが疲れて見えるのか、益々眉根を寄せるケイの顔を見て気が付いた。だから、わざと意識して笑顔を浮かべる。
「うん、ありがとう。大丈夫だよ」
 納得してくれたのかどうなのか、彼もまた控えめに微笑する。
「ケイ」
 通りかかった《御茶会室》の扉が開いている。その内から三月兎が顔を出した。
 トカゲは立ち止まって首を垂れた。どうやら職務が入ったらしい。二人の短い遣り取りのあと、謝ろうとする彼の先手を打つ。

「付き合わせちゃってごめんね」