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小さな鍵と記憶の言葉

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 すっかりさつまいもとマヨネーズを混ぜ込むのに熱中してしまった。ふう、と息を漏らして、自分が今何をしていたのかを思い出す。

 そうだ、タツキは?
 振り向いた調理台では、料理長がカナッペを飾り付けている所だった。丁寧な手つきでハムを切り分けて、サーモンと玉葱を和える。
 ――あれなら、もう心配なさそう。
 まだ軽いレシピではあるけれど、これで毎日の朝や昼や夜の食事時間が定時になれば嬉しい。とっても。

「これで最後だね」
 真っ白な平皿に、二人で作った惣菜を並べる。予定より色々作りすぎた気もするけれど、これで一通りの準備は出来上がりだ。
 サンドイッチに、サラダ。この他にスコーンやクッキーも焼きあがり済みだ。空腹を紛らわすのがアフタヌーンティーだとしても、これは紛らわすどころか満腹になりそうな気配。
 残すところは、あとひとつ。

「あとは、スポンジが綺麗に焼きあがればいいんだけど……」
「リラ!」
 その時ちょうど、オーブンを見張っていたケイの呼び声が聞こえた。いつしか広がっていたバターと小麦粉の素敵な香り。
 私の代わりにタツキが天板を取り出してくれる。その出来栄えに息を呑む。
 これは、怒鳴られながら作ったどのスポンジよりも上手く完成しているような気がする。
 竹串を差し込んだのち、料理長が首を縦に振る。

「うん。これなら上出来だ」
「やった!」
 私は思わずケイの手をとって喜びの声を上げる。

「じゃあ、これに飾り付けをして終わりにしようか」
 先生が私達に最後の指示を出す。これで長かった下準備は終わりだ。ところが、それを聞いてたちまちトカゲの顔が僅かに曇り(前半のスパルタ指導を思い出したのかもしれない)、タツキは声を上げて笑う。

「もう怒鳴ったりしないよ。その代わり、今度は僕も一緒に飾り付けをしてもいいかな」
 その瞳は穏やかな色を称えていた。