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小さな鍵と記憶の言葉

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 しかし、デジャヴを感じることになるのは僅か数分後。

 クリーム色の壁を飾るのはマッシュされたポテトやパプリカの残滓。
 コックコートの彼の手には中華鍋。中身が何処に行ったのかなんて考える必要もない。

「どうしてなんだと思う?」

 地面を這うほどに低い声が、彼の口から発せられる。ぐるりと廻らされる首。今にも号泣しそうな瞳。思わずびくりと背筋を硬直させる。
「やっぱり駄目だ。玉葱が嫌いなひとは、いくら刻んであっても察知するんだよ。そうだろう!?」
 もっともだと、私は心の中で頷いた。

 待機していた薔薇や魚達の手を借りて、厨房を元通り綺麗にする。一向に進展しない軽食作りをどうするべきか。ううん、と私は首を捻る。

「じゃあ、一緒に作ってみない?」
 それは切り札だった。驚いたようにタツキが目を見開く。
「僕とリラが?」
 そう。頷けば益々いぶかしんで瞬きを重ねる。
「普段と違う環境だと気持ちも違うんじゃない? それに、ちょっとデザートに似たレシピに挑戦すれば少しずつ慣れるんじゃないかな。だから、まずはフルーツサンドにしてみようよ」
 実のところは考え付いていた手を掛け合わせただけの作戦だったけれど、口にしてみれば意外と上手く行きそうな気がする。
 そうよ、調理がだめならお菓子に近づければいい。野菜ではなくクリームや果物を使ってはどうだろう。
 そういった経緯で、調理器具と一緒に並ぶのは真っ白なパンと私が買ってきた果物。苺に林檎、バナナにオレンジ、ブルーベリー。どれを使ってもいいからまずは一品サンドイッチを作ってみることにした。


「手際いいんじゃない?」
 タツキの様子は予想通りだった。先刻の大あばれっぷりが嘘のよう。真剣で神妙な横顔を伺いながら、一緒になってミックスベリーのフルーツサンドを作り出す。

「そう、かな」
「そうだよ」
 頷き返せば、彼は言葉少なに目を逸らしてしまった。こころなし、耳が赤い。
「じゃあ次は具を変えてチーズサンドね。その次はスイートポテトのサラダ。それが終わったらオードブルに挑戦してみよう」