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小さな鍵と記憶の言葉

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 二人揃って、というか、ケイを巻き込んでスパルタ指導を受けている理由はかれこれ半日前に遡る。
 いつも通りに朝から白兎の元へ向かい、蔵書を引っ張り出したり書類を纏めたりのお手伝い。出来上がった書面を誰かに届ける伝書鳩的な任務がないのを良いことに、やりたいことがあるのとやっと切り出したのは、午前の紅茶休みの最中だった。

「君が?」

 予想以上に意表を突くことが出来たようで、白兎は万年筆を取り落とした。
 せっせと署名を連ねていたはずの紙の上に伸びた、到底文字になりそうにない謎の線を見守り、私は首を縦に振る。

「そうなの。どうしてもやりたいの。今の私にはこれくらいが精一杯だから」
 空色のスカートの裾を握り締めながら、決死の思いで切り出した話題だった。というより、提案だ。此処に来て初めて私が言い出した、やりたいこと。

「そうは言っても、ねぇ」
 それでもフィンは、万年筆を握りなおしながら、何を求めてか部屋を見渡す。困惑は簡単にとれそうにない。私は心許なく首を傾げる。
「迷惑?」
「そう言う意味じゃなくてね――」
 菫色の瞳が真摯に私を捉えた。どことなく、哀れんでいるような、それでいて決めかねているように見えるのはどうしてなのか。やがて彼は充分に思考した後、一大決心をするように丁寧に頷いた。

「分かった。じゃあ、僕からタツキに頼んでおくよ。それでいい? 後悔しない?」
「しない!」
 満面の笑みの私と、それでも不安げな彼の顔。『後悔』なんて聞いたときは不思議だったけれど、今ならフィンの渋りの意味も良く分かる。