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小さな鍵と記憶の言葉

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「私はソフィーナ。そちらはローレンスよ」
 優雅な微笑みは完璧な大人の女性。それもそのはずだ。彼女はこの城の《女王》の役職。つまりはこの場所の法を纏める裁判長その人。そしてその補佐をするのが《王》の役割だと聞いている。
「あの、突然お邪魔してごめんなさい」
 日本人の性質にならってぺこりと頭を下げる。思わず入ってきてしまったけれど、重要な話し合いを中断させてしまったということはないだろうか。
「構わないよ。リラは今、フィンのお弟子さんなんだろう」
 ちらりともう一つの影、つまり仕事に来ていた白兎に目をやりながら彼、《王》が言う。質問と言うよりはフィンに対する軽口のようなものだったけれど、当の本人は辟易しながら真面目に答える。
「これでは弟子ではなくて、ただの親戚の子供です」
「なによ、ちょろちょろうるさいって言いたいんでしょう」
「わかっているなら、大人しくして居てください」
 いつものことだと知りつつも、これには私だって黙ってはいられなかった。もう一言くらい言い返そうとしたところで、女王と王が零した笑い声に気付く。

「賑やかでいいわね。フィン」
 司法の長である彼女の言葉に急に恥ずかしくなる。ほとんど初対面の人たちの前でいつも通りの遣り取りをしてしまった。しかもここは仕事の場。
 私はとっさに顔を逸らすが、フィンは何を思ったか、
「ええ」
 否定すると思っていたので面食らってしまう。眉の端ひとつ動かさない澄ました表情。話を流しただけだろうか?それとも、本当に賑やかでいいと思っているのかしら。
 なんとなく、揶揄のような気もしないでもないけれど。そんな風に考えていると視線が返ってくる。

「なにか?」
「あ、ううん。なんでも」
 慌てて首を振る。深い紫の瞳はいつも通りだった。けれど。
 気のせいかもしれないけど、少し、少しだけ微笑んでいたような。
「それでは戻りましょうか」
「もういいの?」
「ええ。残りは執務室でも出来ます。リラは?」
 抑揚ない瞳を向けられて一瞬だけ躊躇う。けれどすぐに気持ちを切り替える。
「私は……私も、貴方について来たんだし、戻るよ」
「そうですか。では、参りましょう」
 手にしていた何か書類の束を抱え、フィンが二人に対し一礼する。私も慌てて頭を下げて、くるり踵を返したその背中を追いかける。と、扉に手をかける直前で振り向かれる。

「それとも、心変わりは致しませんか。自分の落ち着く場所で大人しくしていたいのなら、お部屋までお送り致しますが」
「もう迷子にならないってば!」
 その表情はとってつけたような優しい笑顔。
 思わず大声を出すと、背後ではまた王と女王が楽しげに笑っていた。