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小さな鍵と記憶の言葉

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 結局デザートまでばっちり戴いて(柚子のフローズンアイスは、それはもう美味しかった)、城の東塔のほうへ赤絨毯を進む。
 少し遅くなってしまったけれど、フィンはまだ女王の間にいるだろうか。考えながら、くるり後ろに意識を向ける。
「自分の仕事があるんでしょう? 無理してついてこなくていいのに」
 嗜めるように声をかけると、ちょっと頼りない微笑み。
「いえ、ひとりで歩かせないようにと言付かってますから」
 ぴったり着き従ってくるのはオレンジ色の髪、トカゲ――『給仕見習い』のケイだ。
 誰に言われている、なんていったことは改めて聞かなくても良く分かる。確かに、自分のお城で迷子になる女王じゃ、ちょっと頼りない。

「ところで、女王といえば『裁判長』だよね? 私がお邪魔してもいいのかな」
 物凄く今更な気もするけれど、並んで歩きながら聞いてみる。これにもケイはにこにこと答えた。
「リラはアリスですから問題ないですよ。それに、最近は裁判も執り行われていませんし」


 入り口の観音開きの大きな扉は、やっぱり西洋の宮殿を連想させる。
 この部屋の前は何度か通ったことがあったけれど、実際に入るのは今日が初めてだ。クイーンの間というくらいなのだから、もしかして中は謁見室のようになっているのかも。
 そんな期待のせいで、少し緊張しながら重い扉を引き開ける。
 しかし、中は至って普通の執務室。どこかの重役が座りそうな革の椅子に、頑丈で大きなデスクが奥にひとつ、入り口側にひとつ。そして今は、奥の窓前の机の周囲に集まるように人影が三つあった。

 その一番奥の、華奢なシルエットが顔をあげる。マーメイドラインのスーツに長い髪を丁寧に束ねた、有能な弁護士風の美しい女性。傍に佇んで居たのはダークグレーのスーツの男性。すらりと背が高く、フィンに比べて肩幅もある。こちらはやり手の秘書のようにも見える。そしてすぐそれらのイメージが正しいことを思い知る。

「あら、アリスじゃない?」
 私の顔を認識してふわりと微笑む。それにつられて他の二つの影も私に注意を向ける。
 一方私はというと、送ってきてくれたケイにお礼を言ってひとり中へ踏み入れる。恐る恐る部屋の奥へ進んで会釈。それから二人の顔をそれぞれ眺める。
「貴女が《女王(クイーン)》ですね。それと、貴方が……」
「《王(キング)》だよ。仕事中に会うのは初めてかな」
 女王と、傍らにいた男性が差し伸べた手を取った。やわらかい鳶色の髪が太陽に揺れた。