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小さな鍵と記憶の言葉

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 ジョシュアが帰ったのを見て、フィンがやっと席を立った。机周りを片付けて書類の束を整えると、薔薇に何か言い添えて別のファイルを抱える。それにあわせて薔薇にティーカップを返すと、彼は怪訝そうな表情で私を見た。

「……まさかとは思いますが」
「ん? なぁに?」
「まさか、私についてくるつもりではありませんね?」
 なんだそんなこと、と私は笑う。それを見てフィンが安心したように微笑もうと、した。
「ついていくよ。当たり前じゃない。だって今日は、貴方の仕事を見学するって約束したんだから」
 半分だった笑顔がすうっと消えて、その代わりに眉間にシワが入る。白兎の表情の崩れに調子を良くして、私は鼻歌でも歌いたい気分でドアの前に立った。
「それで? まずは何処を回るの?」
 これで少しは私の苦しみを味わってくれるだろう。軽く額を押さえるフィンを振り返って、私は益々優雅に微笑んだ。
 面白くもなんともないよ。彼は改めて、力なく呟いた。


「いいかい、他のものたちの邪魔にならないように大人しくしてるんだよ」
「はーい」
 すぐ後ろをチョロチョロする私に戸惑いながら、白兎は子供をあやし慣れていないお兄さんのような表情をした。私はそれに便乗するつもりで元気良く答える。
「とは言っても、いつも通り大した仕事ではないんだけど……」
 さてどうしたものか、と、だだっ広い廊下の真ん中で白兎は居るかも分からない助けを求めているように見える。なんというか、そこまで面倒に思われるのもあんまりいい気分じゃない。
 けれど今日の私は『邪魔なら帰ろうか?』なんて遠慮する私でもない。ここまで来るとまるで自分の使命のように思われて、居心地の悪そうな彼の背中をじっと観察していた。


 その時だった。

 ――ガシャーンッ!!

 ふいに、廊下の遠くから何か陶器をひっくり返したような音がした。決して雑音がないほど静かな城内ではないけれど、その耳をつくような鋭い音は反響して耳に届く。今の音では、もしかして何か割れたんじゃないだろうか。
 何事だろうと驚いてフィンを仰ぐ。しかし白兎には心当たりがあるらしかった。さっきまでとは少し違うシワを眉間に寄せて、廊下の角を曲がる。

「それじゃあ、あそこに行こうか」

 フィンを見失わないように、私は少し歩くのを速めなければいけなかった。