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小さな鍵と記憶の言葉

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 緑に覆われたドームの中央、木の幹に寄り添うように立てられた一枚の絵。 
 私はその絵画に息を呑む。
 木漏れ日の中、転寝する様子を写し取った絵に見えた。風に吹かれて揺れる薄いレースのカーテン。テーブルに飾られたスミレの花。食べかけのケーキ。
 そして、テーブルに伏せるようにして眠る少年。
 私は彼を知っている気がした。透明な肌に、光の糸のように輝くシルバーブロンド。寄宿舎の一角のような室内、サスペンダー姿の少年。きっと閉ざされた瞳は美しい緑色をしているのだろう。
 それは、その姿は、いつも寝てばかりの庭師と瓜二つ。

「……メリル?」

 とっさに名前を呼んでしまうくらいに、その絵は自然で現実感があった。まるで本当にそこで眠っているかのような。彼がそのまま絵の中に入り込んでしまったかのような。
 辺りを見渡したって、眠り鼠の影はない。
 違う。彼が入り込んでしまったんじゃない。反対だ。おそらく、少年が抜け出した姿こそがメリルなんだ。

 もしかして。
 城の彼方此方で見た骨董品は。
 持ち主の顔が浮かぶ品々は。

 立ち止まりそうになるのを、懸命に前へと進む。厨房も女王の間も、覗かないまま時計塔の前へとやってきた。
 取っ手のない扉。唯一開いた鍵穴に、首から提げていたそれを差し入れる。
 途端にひとりでに、内側に向かって戸が開いた。
 私は声が震えるのも我慢して、奥に居るはずの彼の名を呼んだ。

「いるんでしょう、フィン!」