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小さな鍵と記憶の言葉

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 バスの時間が迫っていたので、鉦原くんと二人で公園を後にした。けれど、と私はなんだか不思議な気分になって、隣り合って歩く彼の様子を窺った。
「ええと、3組の鉦原くん、だよね」
「そうだけど」
 まるで意外だと言うように、同級生の彼はこくりと頷いた。私より頭一つ以上高い視線で振り返りながら、スポーツバッグを抱え直す。彼は何故か私の楽器ケースを代わりに抱えてくれて、申し訳ないと思いながらもその好意に甘えることにした。とりあえず、バス停まで。なんだかまだ手の甲が痛い。
「家、こっちのほうなの?」
「……やっぱり忘れてるか」
 今度は小さく溜息を吐く。私は良く分からないまま、彼の言ったことを反芻して首を傾げる。
「一応、小学校同じだったんだけど。何回かクラスも一緒だった――って言っても一回か二回くらいかな」
 憶えてないよな、と納得して頷く姿に今度は慌ててしまう。だって、同じクラスにはなったことがないし……と、悩んでから、『小学校』という単語に気が付いた。鉦原瑞穂。ちょっと拗ねたような横顔に幼い面差しが重なった気がして、思わず声を上げる。
「もしかして、『ミズホ』くん?」
 今度は、そうだよ、と短く首肯の頷き。
「まぁ俺の名前は君ほどインパクトないし、中学は別々だったから仕方ないよ」
「カネハラミズホなんて格好いいじゃない?」
「そう? 『二月のリラ』なんて派手な名前には負けるけどね」

 冗談めかして笑うから、私も『何か』を誤魔化すように微笑みを浮かべる。
 なんとなく、言葉を交わしていないと、何かを追いかけてしまいそうで。見つからないはずのものを探してしまいそうで。
 そういった意味でも、ここで彼と会えたのは嬉しかった。私よりずっと前を進んでいる人が本当は話してみれば気さくで、学校を少し出れば、本当はどこにでもいる男の子だということ。誰だって私と同じ場所を歩いているんだということ。住む世界なんて、そんなに大きく変わらないこと。

「で、あんなとこで何してたの。昼寝?」
「うーん……ちょっと違うかな」
 私は、手の甲を摩りながら苦笑した。もう痛さなんてほとんど残っていない。白兎の声も、どんどん遠ざかっていってしまう。
 これでよかったのだろうか。私は、何か、忘れてきたような気がしていた。

「夢を見てたの。長くて短い夢を」
「辛い夢だった?」
「どうしてそう思うの」

 私の中に残る夢の欠片を見据えているかのように、真っ直ぐな目がじっとこちらを見る。

「だって、今にも泣きそうな顔してる」

 私は『そんなことないよ』と呟いて、こっそり指の端で目尻を拭った。