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とある鬼の一族のゆるい日常

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幼い日のいたずら



休日。
美鳥と明良が家でくつろいでいると、客が続々と訪れた。
まず圭と建吾がきた。
次に十兵衛がやってきた。
そして。
ピンポーン。
五人が居間で落ち着いたときに、呼び鈴が鳴った。
「だれかな?」
美鳥は首をかしげつつイスから立ちあがった。
インターホンを確認しに行く。
少しして、その近くに到着して足を止めた。
インターホンの画面を見る。
「え」
驚いた。
その画面に映っていたのは、この世のものとは思えないほどの美貌を持つ鬼、竹沢正樹だった。

「なんてゆーか、効果音がキラキラって感じだよな」
十兵衛が向かい側に座っている正樹を眺めて言った。
それに対し、正樹は微笑む。
そのまわりが明るくなったように美鳥は感じた。もちろん、そんなはずはないのだが。
一方、明良と圭と建吾は警戒しているようだ。
特に明良はそれをまったく隠そうとはせず、鋭い雰囲気を漂わせている。
そんなとき。
居間に携帯電話の着信音が響き渡った。
美鳥のものではない。
では、だれのもなのか。
周囲をサッと見渡す。
着信音の発生源。
正樹だった。
その張本人は携帯電話を取りだして、それを眺めている。
だれからの電話かを確認しているらしい。
「……出ないの?」
美鳥はたずねた。
「ああ」
神妙な面持ちで携帯電話を眺めたまま、正樹は答える。
「修一っていう名の僕の従兄弟からなんだけど、また説教されそうな気がするんだよね」
しばらくして、着信音が途絶えた。
正樹はほっとした表情になる。
その途端、あたりの雰囲気が華やぐ。
「説教を回避できた。良かった」
「……いやいや、先延ばしにしただけじゃねーのか?」
「むしろ、先延ばしにしたぶん、説教の量が増えるのでは?」
十兵衛と美鳥がツッコミを入れる。
他方では、明良と圭と建吾が視線を交わし、微妙な表情をしている。
この鬼は変。
そう思っているのが伝わってくる。
しかし、正樹はそれらの反応をまったく気にしていない様子だ。
「シュウは僕が幼い頃にしたいたずらをいまだに根に持っているんだよね」
シュウとは修一のことだろう。
「竹沢の鬼の中には異性に変身できる者がいて、もちろん僕もそうだ」
もちろん、と付けたのは、最強だいう自負があるからに違いない。
正樹は話を続ける。

幼い頃に、正樹も異性に変身できるようになった。
変身といっても、まるで違う容姿にはなれず、年齢はそのままで、面影も残るらしい。
美少年であった正樹は美少女になったのだろう。
そして、変身できるようになった正樹はそのことが嬉しくて、まわりの反応を楽しんでいた。
そこに修一がやってきた。
修一は正樹を見て、戸惑った様子になり、そして、だれなのかとたずねた。
変身した自分だと気づいていない。
そのことを正樹はおもしろがって、自分は正樹の双子の妹で、生まれてすぐに別の家の養女になったのだと、嘘をついた。
かなり嘘っぽい嘘である。
今の修一であれば即座に嘘だと見抜くはずだ。
しかし、少年だった修一はそれを信じた。
そのうえ、修一はなんだか同情してくれたようで、一緒に遊ぶことになった。
正樹はますますおもしろがった。
やがて、陽が暮れて、家に帰ることになった。
修一は家まで送ってくれた。
家に到着し、その別れ際、「じゃあ、またね」と正樹が告げても、修一は踵を返そうとはしなかった。
なにか言いたくて、だが、言えずにいる様子だった。
正樹はどうしたのだろうかと首をかしげていた。
しばらくして、修一は意を決した表情になり、告げた。
大人になったら俺と結婚してください、と。

「それを聞いたときは、本当にびっくりした」
正樹は明るく言う。
「おかしくって、つい、噴きだしてしまった。そしたら、今度はシュウが驚いた」
「……ええ、それはそうでしょう。プロポーズした相手が笑い出したら」
「それで、僕は双子の妹じゃないって言って、元の姿にもどってみせた。シュウは堅い表情になって、なにも言わずに去っていった」
「そうとうなショックを受けたんでしょうね……」
「いや、かなり怒ってたみたいで、しばらく会ってくれなかったし、たまたま会うことがあっても口をきいてくれなかった」
「……心中お察しするわ」
その対象はもちろん修一である。
けれども、正樹は美鳥の言葉の意味を深く考えなかったようだ。
「子供のちょっとしたイタズラなんだから、その反応はひどいよね。でも、まわりは僕が悪いって言うんだ」
「ええ」
はっきりとわからせたほうがいい。
そう思い、美鳥は強くうなずく。
「あなたが百パーセント悪いわ」
「えっ」
正樹は驚いた様子で、まわりを見渡した。
すると。
「そりゃ、相手がいつまでも根に持ってもしかたねーだろ」
「いくら子供だったとはいえ、それはタチが悪すぎる」
「完全にトラウマになったね」
「フォローできません」
十兵衛、圭、明良、建吾が口々に言った。
「……そうなんだ」
孤立無援となった正樹は肩を落として、うつむいた。